4月、新年度が始まりました。進学、進級、そして新社会人が第一歩を踏み出す初々しい季節です。
すでに企業で活躍しているビジネスパーソンにとっては、人事異動・転勤の時期でもあります。慣れ親しんだ職場を離れ、新しい場へ移った方も多いでしょう。激しい競争を勝ち抜いて昇竜の如く勇躍、栄転という場合もあるでしょうが、不本意な異動や都落ち、または信念を貫いた上で甘んじて受け入れた左遷…といったことだってあるかもしれません。
長い人生、照る日もあれば降る日もあります。順風満帆の人生というのも、案外つまらないかも。意に沿わぬ転勤・人事異動も人生の貴重なスパイスです。少々の事ではへこたれず、他人の痛みも分かるようになるでしょう。優しさと強靭さを併せ持つ、より素敵な人間になれるはずです。
音楽の世界でも、人事異動や転勤の結果に生まれた名曲・名演があります。そこで今回は、クラシックの名曲から4曲を厳選。後世に名を遺す偉大な音楽家たちが生みだした名曲の背景には、様々なドラマがありました。
(1)緊急事態の人事で大活躍
アルトゥール・トスカニーニ ヴェルディ歌劇『アイーダ』
トスカニーニは20世紀を代表する最高の指揮者です。心技体とも充実した89歳の生涯を全うし、数々の名演と逸話を残した真のカリスマです。
しかし、若き無名のトスカニーニ青年が天才指揮者へと羽ばたく瞬間には、人生の妙味が凝縮していました。自らの夢を諦めた時に、思いがけないチャンスが舞い降りてくる…。運命の交差点とも言えます。
トスカニーニは1867年、イタリアで誕生しました。北部の街・パルマの労働者階級が暮らす地域の仕立て屋の息子でした。幼い頃から楽才を示し、全額給付生として10歳でパルマ王立音楽院に入学。作曲、チェロ、ピアノの各科で最優秀成績となり、18歳で卒業しました。
作曲家になる夢を追いますが、ヴェルディやワグナーら偉大なる先達の音楽を研究するにつけ、己の才能の限界を知ることとなります。それでも、ロッシ歌劇団に首席チェロ奏者兼、合唱副指揮者のポストを得ます。18歳の青年としては抜擢でした。
そして、運命の扉が突然開きます。
翌年の86年、歌劇団はブラジル公演に赴きます。リオデジャネイロの聴衆たちは、本場イタリアのオペラに期待を膨らませましたが、初日の公演は不出来で失敗。歌手たちは指揮者の交代を要求しました。
そして公演2日目。急遽別の指揮者が演壇に立つと、観客は大騒ぎ。指揮者は狼狽して演奏ができず、混乱は1時間以上続きました。