『週刊ダイヤモンド』4月18日号の巻頭特集は「もう神の手はいらない? がん 最前線」。変貌するがん三大療法の全貌に迫りました。特集の中から、注目を集める手術ロボット「ダビンチ」の話題をお送りします。
がん専門病院として名高いがん研有明病院(東京都江東区)の泌尿器科医は深刻な面持ちで、右肩下がりのグラフを経営幹部に掲げてみせた。
「前立腺がん、こんなに数字が落ちています」──。
数字は、がん検査の腫瘍マーカーの値でもなければ、手術後の経過データでもない。院内で施した前立腺がん手術の数である。
全診療科を合計した手術総数は右肩上がり。症例数は全国に約400あるがん診療連携拠点病院の中で堂々トップを誇る。
にもかかわらず、この数年、前立腺がんの手術数は激減していた。
異様な事態に陥った理由を太田隆博常務理事は「『ダビンチ』の影響がある」と明かす。
ダビンチとは手術支援を行うロボット装置。開腹することなく、ロボットが備えるさまざまな機能を使って精緻に手術を行えるものだ。2012年に前立腺がん全摘出でダビンチによる手術が公的保険適用となり、全国の医療機関で導入ブームが巻き起こった。
がん研有明はこの流れに乗らなかった。保険適用されたからといって、患者、医師、病院にとって本当に価値あるものなのかを見極めかねたからだ。
院内は導入推進派と慎重派に分かれた。激しい議論の末に導入は見送られた。
その後、がん研有明では前立腺がんの手術数が減少していった。調べてみるとダビンチを導入した周囲の病院は、手術数を増やしていた。
患者やその家族たちがインターネットなどで、ダビンチがある病院を選んで受診していることが想像できた。
がん研有明のブランド力をもってしても、ダビンチがないという一点で病院選びの対象から外されてしまう。恐るべしダビンチ、である。