ダヴィンチでは、患者の体に挿入されたロボットアームを執刀医が遠隔操作する。国内で34施設が導入

 2012年度の診療報酬改定は前立腺ガン患者には朗報だ。高額な最先端治療である“ロボット手術”を公的保険で受けられるようになったのである。

 一方で前立腺ガン以外の患者は憤りを覚えただろう。日本人に最も多いガンである胃ガンも、ロボット手術の国内実績は少なくない。しかし公的保険で適用になったのは前立腺ガンだけだった。

 前立腺を全摘出するロボット手術はすでに「先進医療」にも認められている。先進医療は保険診療の医療水準を超えた最新技術として国が認めるもので、該当する医療機関で先進医療を受けた場合、診察料などの通常診療部分は公的保険を使うことができる(先進医療そのものは全額自己負担)。

 つまり前立腺ガンのロボット手術の場合、自由診療では通常診療部分も全額自費となって140万円程度払うところを、先進医療であるために自己負担が80万円ほどに軽減される。さらに4月から公的保険が適用されると、高額医療費制度を利用することで自己負担は10万円ほど(年齢や年収などによって額は異なる)ですむ。

 対して前立腺ガン以外のガンはいまだ先進医療にも認められず、200万円前後の治療費はすべて自費で払わなければならない。

 ではなぜ前立腺ガンだけに公的保険が適用されたのか。これは公的保険適用となった手術支援ロボット「ダヴィンチ」が米国製であることが影響している。

 ダヴィンチは米国で蓄積された手術実績に基づいて日本で医療機器として承認された。米国では前立腺ガンの患者数が多く、実績データが豊富に集まった。ところが胃ガンは実績が積まれていない。胃ガンは欧米人に少なく、アジア人に多いガン種であるからだ。

 日本や韓国などアジアで胃ガンでの実績も蓄積されつつあり、先進医療、さらには公的保険対象に認められる道は開けるかもしれない。しかし前立腺ガンに比べれば、どうしても時間を要する。その間にもやはり米国で実績が豊富な子宮ガンが先進医療や公的保険対象になる可能性が高い。

 もし日本製が開発されていれば、患者数の多い胃ガンは後回しにならなかったかもしれないが、「国内勢は診断用の医療機器の開発には熱心でも、治療用には及び腰」と業界関係者は首を横に振る。「海外勢に比べ、命にかかわるリスクを負う意欲は総じて乏しい」という。

 ダヴィンチを使った手術を数多く手がける藤田保健衛生大学の宇山一朗主任教授は「米国製は小柄な日本人には大き過ぎると感じることもあるし、日本の医師の要望や患者の実態をもっと反映した日本製が登場してほしい」と望む。前立腺ガンが公的保険でカバーされたことは確かに一つの朗報だが、同時に海外頼みで出遅れた日本の医療機器事情を露呈させた。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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