「地球を刺繍する人たち」は
今も貧困にあえいでいる

 当時の記述はネットからとっくに消えてしまった。いま、いくら検索しても見つからなくなった。しかし、私の記憶に残っていた当時の光景はいまでもありありと鮮明そのものだ。

 いまや社会人となった娘は中学時代、農村に残っていた私の同年代の人たちとその子供たちの生活を取り上げたドキュメンタリーを見たことがある。見終わったあと、冷や汗をかいた娘は真剣な表情で、「もしお父さんが農村を脱出できなかったら、つまりあたしもその子供たちと同じ運命になっていた」と感想を述べた。

 のちに大学に進み、アメリカ留学も経験して社会人となった娘は当時のその感想を忘れていないようだ。彼女は親の私からお土産として島一つをもらうことは絶対にないが、おそらく中国農村でよく見られる過酷な生活をこれからも体験せずに済むだろう。

 しかし、元陽の棚田の横で熱を出したため、ビニールに身を包み地面に寝ていたハニ族の娘さんを思い出さずにいられなかった。その子は果たしてうちの娘並みの暮らしを送れているのか。正直に言うと、もしこう聞かれたら、私はどう答えればいいのか、わからない。地球を刺繍する人々の多くがいまだに生活に苦しんでいるという中国の現実を知っているからだ。

 パソコンに保存している当時の写真を何度も探してみた。だが、その子が写っている写真はなかった。