米国の貧困と格差の拡大は、日本以上に深刻だ。「自己責任の国」とされる米国では、公的扶助は「甘やかさず、就労へと圧力をかける」という目的のもと、少なくとも現金給付部分については、日本よりも低く抑えられていると理解されている。
しかし米国の福祉を考えるとき、民間セクターによる福祉を無視することはできない。大きな予算規模と組織力を持つこともある民間団体の数々が、公共の一部として、行政を補完する機能を果たしているからだ。
ただの“物資配布センター”ではない
困窮者に尊厳と勇気を与えられる場
Photo by Yoshiko Miwa
「おはよう、今日は何のために来たの? 何も心配することないわよ。スタッフは親切だし……」
60歳前後と思われる女性が、私ににこやかに話しかけた。女性は、空の大きなキャリーカートを押していた。2015年2月のある朝、午前8時40分ごろのことだ。
私は、米国・サンノゼ市中心街から3キロほど離れた場所にある非営利団体「Sacred Heart(聖なる心)」のコミュニティセンターの前にいた。センターが活動を開始するのは、午前9時。ドアの前には、既に50人ほどが行列していた。なお、キリスト教色の濃い団体名ではあるが、現在のSacred Heartには特定の宗教との関係はない。
私は、女性の好意に感謝し、「日本から来たジャーナリストなんです」と自己紹介した。女性は驚いた様子で、周囲の人々に「わざわざ日本から来たんだって!」と語った。周囲に、さまざまな肌の色の男女数名が集まってきた。一人ひとりに挨拶し、今日、このコミュニティセンターにやってきた理由を尋ねる。「食糧のため」「衣服のため」「仕事を探すため」とさまざまだ。
そうこうするうちに、行列の人数は増えていき、100人ほどになった。子ども15人、20代・30代が20人、40代・50代が15人、60代以上が50人、といった感じだ。全体の70~80%は有色人種。現在も根強く残る米国の人種差別が、はっきりと目に見えてしまう。しかし、人々の表情は明るい。知り合いと、あるいは初対面の人々と、楽しげに談笑している。中には、暗い表情を浮かべて下を向いている人もいるけれども。
9時になった。センターのドアが開き、人々はセンターの中に入っていく。私も中に入った。もちろん、事前に取材アポイントメントは取っている。ディレクターのChad Harris氏に、センター内を案内してもらった。