日米首脳会談とは「属国日本」が「盟主アメリカ」に方針と成果を報告するイベント、と考えると分かりやすい。
属国の首相が期待するのは「お褒めの言葉」。今回の貢物は「安全保障法制の整備」だった。御盟主のかねてからのご所望である。
宿題はもう一つあった。「近隣を刺激する発言は控えるように」という御指示である。戦後70年の節目に首相が何を言うか、世界が注目している。言いたいことを封じられる首相は、面白くない。「戦後レジームからの脱却」を掲げ、右派勢力の熱い期待を背負っているからだ。
支持者にはいい顔をしたい、ご盟主様には逆らえない。いら立つ首相の脇で、困惑するのは舞台設営に奔走する従者たち。役者がセリフを間違えば、日米首脳会談は台無しになり、盟主様を不快にするからである。
「首相動静」が暗示する
首脳会談での“振り付け”
新聞に載る「首相動静」。首脳会談に向け首相の振り付けに忙しい官僚の姿が浮かぶ。
21日は7時58分から財務省の香川次官や浅川国際局長が官邸に。閣議で10分間中断されたがご進講は9時35分まで続いた。替わって入ったのは甘利明TPP担当相。大江主席交渉官が同席。10時28分からケネディー駐日大使が訪れている。
財務省のご進講は、顔ぶれから見るとアジアインフラ投資銀行(AIIB)が話し合われたようだ。アメリカにとってAIIBは、IMF・世銀体制と呼ばれる米国支配の国際体制への挑戦だ。日本は米国の意に沿って「不参加」を決めたが、英国・ドイツ・フランスまで中国になびいてしまった。
日本の産業界は焦る。アジアのインフラ市場は大切な商機、中国に主導権を握られたくない。EUに先を越されるのも困る。
財務省は「参加の機会を探る」へと軌道を修正中だ。それには米国の「承認」がいる。その前に首相に軌道修正を納得させなけれがならない。
属国と盟主の「利害関係の調整」は官僚の大事な役目でもある。日本にとって中国はいまや米国を超える貿易相手国だ。そしてアジアは日本にとって死活市場。中南米を抱えるアメリカとは条件が違う。欧州勢がAIIBに参加しアジアへの食い込みを狙う今、米国との共同歩調は決して日本の利益にならない。ところが首相自身が参加に乗り気ではない。中国が面白くない首相をまず説得しなければ前に進まない。役人はそんな厄介ごとを抱えている。