印象に強く残った名経営者の引き際

 私は、以前GEに在籍しており、〈20世紀最高の名経営者〉といわれたジャック・ウェルチ会長の引退の年に行われた会合に出席していました。当時、私は30代半ばでしたが、「プラスチックス事業部の将来をどう思うか」とウェルチ会長に名指しで尋ねられたのです。会長自身が長くプラスチックス事業部を経験し、その中興の祖といわれる方でした。日本人の感覚としては30代半ばの若者がウェルチ会長に意見は言いにくく、ここは頭を垂れた方がいいと思い、「経験豊富な会長に申し上げるようなことはありません」と言いました。すると会長に「事業部のCFOというポジションにいながら自分の意見も言えないのか。そんな人間を経営者にした覚えはない」と言われました。この言葉で私は腹をくくりました。当時、プラスチックス事業部を含めGEは日本離れが進んでいました。「日本には将来性がないからアジアに拠点を移していく。プラスチックス事業部についても同様の展開を私は考えている。どう思うか」と聞かれたので「私はそうは思わない。それは非常に表層的なものの見方で日本には優秀な人材もおり、テクノロジーも備えている。マスの電化製品を作るならアジアでも構わない。日本では、独自の技術を活かしたプラスチックスの高度な製品を作る能力を大切にし、ニッチかつ高い精度、そして高単価の製品を造るという住み分けを考えるべきではないか」と話しました。

 そう会長に話した瞬間、周囲は凍りつき、数秒気まずい空気が流れました。直後、会長がいきなり大笑いしながら隣にいた後継者のジェフリー・イメルト氏に向かって「ジェフ、今のを見たか。自分はいろいろな局面で正しい判断をしたことが多かった。特に事業の戦略や将来を見通す力というのは誰よりもあった。それが最近はいろいろな人から〈違う〉と言われることが増えてきた。今もこんな子どもみたいなのに否定された。だから自分はもう引き際なのだ。最後まで引き際を見誤らない自分の先見は正しいだろう」と言われたのです。