文部科学省より先進的な科学教育を行うスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されて5年。「市川サイエンス」と名付けられた課題研究は生徒の探究力を大いに引き出し、国内外のコンクールで数々の上位賞を獲得するなど輝かしい成果を見せている。プロジェクト責任者である細谷哲雄教諭にその詳しい取り組み内容を伺った。

自然科学体験不足の受験生に“原理を追究する機会”を

 中学受験生の大半は、自然科学的な体験が浅い。講義中心で実験・観察体験が少ない日本の教育では生徒の想像力育成が不足しています。本校の入学生も例外ではありません。このような現状を踏まえ、生徒にもっと本質的な力、つまり“原理を追究し概念をきっちり理解する力”をつけさせたいと思い、SSHに応募しました。

 市川SSHの最大の特徴は中高合わせた生徒全員が対象であること。SSHを機に全学年で体験型の授業を充実させ、中学1年から様々なプログラムを実践しています。「シンキング・サイエンス」もその一つで、これは科学的な思考力を段階的に高めていくというもの。例えば授業では様々な三角形を用意し、色別・大きさ別など一時間かけて徹底的に分類します。一見他愛無いことですが、“何が変数で何が出力なのか”という科学の基礎的な分析力を体験的に学ぶことができるのです。その効果はプログラム実施後すぐの、夏休みの自由研究レポートにも現れます。このように中学で科学の基礎力を築き、高校でより核心的なプログラムへと展開していきます。

「実験中心の授業」と「課題研究」の二本柱

「本質を捉える力」を養いたい。<br />自ら問題を発見し、探究する市川サイエンス

 高校での取り組みは実験が中心の「探究型授業」と、自ら課題を設定し研究する学校設定科目「市川サイエンス」(高2)の二本柱で進行していきます。探究型授業では多くの実験をこなし、現象から原理・原則を考える姿勢を繰り返し養います。また実験結果に関するプレゼンの場を多く設け、意欲と理解の向上につなげています。

 一方、課題研究の市川サイエンスは自分の発想を自由に試す場です。夏休みまでに大学や企業の研究室を訪問しながら自分のテーマを探し出し9月以降は自らの研究深化に没頭。2月には全員が外部発表を経験し、3月に行われる学校での最終発表をもって一年が終了します。研究に没頭できるSSHの存在を知って、本校への入学を希望する帰国生もいます。探究型学習法が染み付いている帰国生にとってSSHはまさに活躍の場。またそのような生徒はプレゼン能力も高く、一般の入学生にも良い刺激になっています。

 科学を通じた国際交流もSSHの主な目的の一つです。現在ではニュージーランド・イギリス・オランダ・中国・タイの5ヵ国の学校と共同研究や討議などの学術交流を実施、生徒は英語を介してハイレベルな科学交流を行えるようになってきました。ニュージーランドはもともと「語学研修」の訪問国ですが、SSH導入後に「海外研修」と名称を変え、語学研修・科学研修・創作活動の中から生徒が自由に選べるようになりました。いずれSSHが発展的に解消された後もプログラムが残るよう、学校行事に吸収させているのです。