若い営業マンの言葉が自らを見つめ直す転機に

 これもGEに在籍した当時のことです。会社全体の事業計画を発表し、全社に向けてプレゼンテーションをしました。データを分析するとさまざまなことがわかりますし、今後どういう事業展開をすべきかも見えてきます。私は、数字を挙げてこの事業部はこうした方がいいと伝えてプレゼンを終えました。そこに20代前半の営業マンがやって来て、私にこう言ったのです。

「今のプレゼンは数字をベースに組み立てたものです。あなたはデータを元に全社を理解していると思っているかもしれない。では、聞きますが、あなたが(当時の大手顧客であった)キヤノンや日産といったような社長に会ったときにどんな話ができるのですか。お客様を惹きつけることができなければ、いくら数字を通して会社全体を把握しても組織を動かすことはできません」

 自分が今までやってきたことを振り返ってみますと、確かに多くの数字を扱いつつデータを見て対処し、高所からものを言う訓練はしてきました。しかし、実直にお客様の心をつかみ、ハートに響く話ができるのか、一緒にやっていきたいと思わせることができるのか。そういったことを果たして自分はできるのだろうか。そんなふうにその日から悩み、考え始めたのです。

 結果的に30代後半に私はGEのCFOという職を捨て、アメリカに渡り、業種も変え、平社員として一からやり直しました。現場に入って人を動かし、お客様の心をつかむことの重要性を教えてくれたのは社長でも先輩でもなく、一介の若い営業マンだったのです。彼の言葉は私にとって大きな転機になりました。

 人生においてさまざまな選択をし、いろいろな道を経験することで自分自身が成長し続け、その道のりで社会や地球に自分が生きてきた証を残していく。その行程が働くという手段だと思います。80数年の人生において、これだと思える職業や会社、部署、業務が一度で見つけられたとしたら、それはとても幸せなことですが、ほとんどの場合、そうはいきません。本当に自分が適しているのは何なのだろうかと考え、多くの経験を積み重ねることで自分も変わっていきます。そうやって少しずつ歩みを進めていき、その行程で多くの人とふれあい、自分が存在したことに「ありがとう」と人から言ってもらえる。それが働くということだと私は考えています。