アベノミクスで株価は
タブーから政策手段になった

 しかし、アベノミクスによって時代は変わった。

 2012年末に民主党から自民党の安倍政権への政権交代があり、次期日銀総裁に黒田東彦氏が指名され、13年4月には「黒田バズーカ」とも呼ばれた大規模な金融緩和政策が発表・実施された。

 この記者会見の質疑応答の中で、金融緩和政策の一環としてETF(上場型投資信託)を買う理由を問われた黒田総裁は「株式のリスクプレミアムにはまだまだ縮小の余地がある」と答えた。

 リスクプレミアムとは、投資家が将来の利益を現在の価値(=株価)に評価する際に、リスクを負担するにあたって追加的に要求する利回りを指す概念だ。将来の企業利益を一定として、金利も一定であるとした場合、リスクプレミアムが縮小すると株価は上昇し、逆に、リスクプレミアムが拡大すると株価は下落するという関係になる。

 黒田総裁の発言を、主語を「株価」にして金融論的に言い換えると、「日本の株価は、利益の増加や金利の低下といったことがなくとも、現状のままでもっともっと高くていいはずだ」とでも言ったのと同じ意味だ。

 この発言は、それまでの日銀の方針からして大きな転換であった。しかし、会見の場にいた記者達はその意味に気づかなかったのだろう。

「今、総裁が言及された日本株のリスクプレミアムについては、具体的にどれくらいと推定されていますか?」とか、「リスクプレミアムが適正になる株価をどのくらいとお考えでしょうか?」とか、「日本株にあって適正なリスクプレミアム水準はいくらぐらいで、それは日経平均で言うならどれくらいの株価になりますか?」といった追加の質問がなかったのは大変残念だった。

 加えて日銀は、ETFを通じて株式を買っている。GPIF(年金積立金管理運用特別行政法人)の影に隠れて目立たないが、年間3兆円とは相当なペースだ。株価は金融政策の手段の一つにもなった。