ちなみにこの宣伝ビラで比較されていたのは納豆の食味だった。納豆の容器には経木を用いたほうが美味しいのは本連載でとりあげた下仁田納豆(本連載第26回参照)を食べればすぐにわかる。

「そんな時代でしたから父も『この仕事は時代遅れだから』と言っていました。それで私自身はプラスチック包装容器を製造する会社に勤めていたんです」

 ところが身内に不幸があったことで阿部さんは経木店に戻り、家業を継ぐことになる。今は息子さんと二人で経木店の伝統を守っている。プラスチック包装業界と経木の世界の両方を経験している人の話だけに重みがあった。

──戻ってみてどうでしたか?

「やはり、価格面など辛い部分もありますよね。一番大きなネックは大量生産ができないことです。ただ、良さはやっぱり感じますよね。ほとんど残すことなくすべて利用してます。木は本当に捨てる場所がないんです。丸い木を四角にすると外側が出ますでしょ。それは焼き物の薪になるんです。木くずは牛舎の下にまいたり、木片は果樹園。時々、木の下に撒かれているのを見たことありませんか? そんな風にまったく捨てないで最後の最後まで利用してもらえます」

 灰かぶりの焼き物には松の薪が欠かせない。また牛舎や果樹に使われるのは土に還る木の性質を利用したものだ。世の中は有機的に繋がっているので、経木造りが途絶えてしまうとその影響は大きい。

──とにかく機能性が優れているので、そうした利点が知られてもいいように思うのですが。

「そうですね。うちの息子夫婦の家なども揚げ物をするときは皿に敷いて使っています。油を吸ってくれ、洗い物も楽だと言っています。焼き餃子にもいいです。例えば大手の居酒屋さんなどが使ってくれるようになると、経木がもっと身近になるとは思うんですけど」

「経木で包まれたおにぎり」には
日本人が失ってはいない何か、がある

「元々、このあたりは繊維産業が盛んだったのでこうした機械の技術が発達したんですね」と阿部さん

 製造の現場を見せていただく。工場には古びた機械が二つ並んでいて、奥には刃を研ぐ研磨機がある。

「機械は大工さんの削る鉋を裏返しにしたようなものです。やはり、ある程度の固い木を薄く削っていくので、節やなんかにあたると刃が欠けてしまったりします。ですから、そのたびに研ぎ直すことになるんですが、昔はグラインダーや砥石を使っていたので非常に難しい技術だったんです。今は研磨機があるので、それに任せられますが」