ブラザー工業が好調だ。5万円台で買えるA3複合機のみならず、スマートフォン用の工作機械や、子会社が手がけるカラオケの「ジョイサウンド」など、様々なヒット商品を手がけているのだ。ミシンメーカー変身の舞台裏を探ってみた。

ミシンが売れていた時代から始まった
縁のない業種でのモノづくり

 超長期的な視点で見ると、企業は形を変えて生き延びていく。

 衰退期を迎える前に必ず、何らかの「飛躍」が必要なのだ。たとえば帝人は化学繊維のメーカーだったが、現在は医薬品を中心に業績を伸ばしており、同時に将来へ向け、子会社・東邦テナックスの炭素繊維事業を伸ばしている。別の分野へ進出する時の振る舞いに、同社のDNA、つまり伝統的価値観が息づく。

 帝人の幹部を務め、現在は東邦テナックスの社長を務める吉野隆氏いわく「関連事業を伸ばすのでなく、無関係であっても、将来有望な事業に投資します。医薬品も、営業も何もないところから、有望な研究者をスカウトして始めたんですよ」とのこと。これが帝人のDNAなのだ。

 ブラザー工業も、そんな「飛躍」を重ねてきた企業だ。常務執行役員の佐々木一郎氏が話す。

元々はミシンメーカーだが、今やプリンタからカラオケ業界まで縦横無尽に活躍する。ブラザー工業を支える商品開発のDNAとは?

「当社は元々、ミシンのメーカーとして事業を拡大してきましが、精密機器製造の知見を生かしてタイプライターの製造を開始しました。その後1970年代に米国でパーソナルコンピュータが発明されたことを受け、『これからはパソコンとプリンターでものを書く時代が来る』と複合機やファックスの製造に着手しました」

 ミシンが売れていた時期から、ミシンのみへの依存から脱却していたのだ。また、先に紹介した通り、その後も既存事業とは縁のない業種へ次々と進出。通信カラオケや、ヘッドマウントディスプレー「エアスカウター」など様々な事業で成功を収めている。

 ただし、佐々木氏に「トップはどのように次の成長分野を見つけたのか」と質問すると意外な答えが返ってきた。

「ウチはボトムアップ型の企業なんです。成功している分野も、最初は、現場の(若手)社員たちが発案し、トップの心配を打ち消した上で、実施に持ち込んだんですよ」