音楽のチカラが物語を盛り上げ
戦争の不条理を告発

◆「シェルブールの雨傘」(1964年)

 1964年のパルム・ドールは、ジャック・ドゥミ監督の「シェルブールの雨傘」。音楽は、若き天才ミッシェル・ルグランです。

 映画の舞台はフランスの軍港シェルブール。若き恋人同士がアルジェリア戦争によって引き裂かれる悲恋です。ストーリーはフィクションではありますが、ドゥミとルグランは作品で反戦の思想を表現しました。直裁な形で表すことはせず、蒼いまでの二人の純粋な愛を描くことで、戦争の不条理を告発したのです。しかも、台詞は全て歌もしくはレチタチーボ(朗誦)のミュージカル仕立てです。が、天才ルグランが創り出す旋律に歌詞が乗ることで、重々しいまでのリアリティーが宿ります。

シェルブールの雨傘 サウンドトラック盤

 恋愛の歓喜、別れの悲しさ、不安、失望、諦観、再出発…。物語の進行に伴い、心の中に生まれる様々な感情が、ルグランの旋律に共鳴して、観る者の心の襞を掻きむしります。

 もし「シェルブールの雨傘」(写真はサウンドトラック盤)からルグランの音楽を除去したとしたら、陳腐な悲恋物語に終わったかもしれません。しかし、音楽が全てを変えました。

 古代ギリシアから、人々は悲劇に涙し、感動を味わってきました。ギリシアの遺跡から出土した壷には竪琴が描かれていて、その頃から音楽と劇は密接に関わって来たことが分かります。音楽のチカラが劇を盛り上げ、物語が投影されることで抽象的な音楽が意味を持ちます。そのシナジーが感動の正体です。「シェルブールの雨傘」はそんな音楽と劇との関係を思い出させます。

ミシェル・ルグラン

 そして、素晴らしき音楽は、いかなる編曲でも輝きます。ジャズ・ピアニストとしても超一流のルグランが、自身のピアノ・トリオにトゥーツ・シールマンのハーモニカを加えた四重奏で奏でる”シェルブールの雨傘”の主題曲も滲みます(写真左)。