経営再建中のシャープが、巨額赤字の中で打ち出した中期経営計画に批判が集中している。銀行が再建を主導しながら、一体なぜ骨抜きになったのか。深層を探る中で、見えてきたのはとんでもない実態だった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)
5月18日午前。大阪市阿倍野区のシャープ本社では、会議室に順次集められた社員たちが、大型のディスプレイをぼんやりと眺めていた。
画面に映っているのは、高橋興三社長。前週に公表した新たな中期経営計画について、トップ自らが改革の方向性や理念を語った録画映像を、40分にわたって見せられていたのだ。
関西弁交じりの“施政方針演説”の中で、「(希望退職は)苦渋の決断だった」「途中で投げ出さず、改革をやり切ることが責任の取り方だ」と話す姿を見て、ある若手の社員は「周囲の人たちがタイミングを合わせたかのようにため息をついているのを見て、思わず苦笑いしてしまった」という。
しらけた雰囲気が会議室にまん延する中、社員の多くは、保身の塊のような役員たちを見て「あなたたちこそ辞めるべきだ」と、胸の内で叫んでいたに違いない。
踏み込み不足の改革で、リストラを余儀なくされた高橋社長は続投。仲の良い副社長2人も、取締役の退任や代表権の返上はしたものの、なぜか引き続き役員にとどまったからだ。
人事に限った話ではない。シャープが14日に発表した2015年3月期の連結決算と中計は、社員ならずとも目を覆いたくなるような内容だった。
わずか2年前に1100億円の黒字目標を掲げていた営業損益は480億円の赤字に、400億円の黒字としていた最終損益は2223億円の巨額赤字に転落した。
最終赤字がここまで大きく膨らんだのにはワケがある。
主力の液晶パネル事業での在庫評価減に加えて、稼働率が低下した亀山などの工場の減損、過去に高値で契約した太陽電池原料への引き当てなど、決算期末の土壇場で事業の“ウミ”を出したからだ。
今後の反転攻勢に必要な処理だったが、問題なのは、そのウミ出しを一部にとどめたことだ。
これまで何度も議論の俎上に載せられてきた、競争力を失いつつある薄膜太陽電池からの撤退や、テレビやLEDなどの国内生産拠点の縮小・撤退などは、中計でほとんど触れることはなかった。