クラウドコンピューティングは、ICTベンダー自身にも従来の製品販売からサービス提供へと、ビジネスの大きな転換を迫る。果たしてベンダー各社は、どのような事業戦略を描き、激戦市場を勝ち抜こうとしているのか。今回は、SAPジャパンの取り組みを紹介する。
利用者数8000万人を超える
クラウドサービスを展開
「SAPのクラウド事業における最大の使命は、革新的な技術によってお客様のビジネスを進化させていくことにある」
SAPジャパンの福田譲社長は、取材の中で重ねてこう強調した。「革新的な技術」とは何か。「お客様のビジネスを進化させていく」とはどういうことか。これらの点を踏まえて、SAPのクラウド事業の“核心”に迫ってみたい。
独SAPはERP(統合基幹業務)をはじめとした業務アプリケーション分野で世界トップシェアのソフトウェア企業である。同社がクラウド事業に本格的に乗り出したのは2年ほど前のことだ。
それまでも、主に中堅・中小企業を対象としたERPなどの業務アプリケーションを「SaaS(Software as a Service)」型クラウドサービスとして提供してきたが、2年ほど前にすべての規模の企業を対象にしたサービス展開へ広げることを打ち出した。
その際、SaaSとして提供するアプリケーションも「People」「Money」「Customer」「Supplier」といった4つのカテゴリの下に体系化し、業種を問わずに組み合わせて導入できるようにした。
また、それまでアプリケーションごとに異なっていた開発基盤も、2013年5月に発表した単一の「SAP HANA Cloud Platform」に統一。これは、同社が5年ほど前に投入したインメモリ型プラットフォーム「SAP HANA」をベースに、アプリケーションの開発・統合やデータベース、データ分析などの機能を装備した「PaaS(Platform as a Service)」型サービスである。(下図参照)
SAPジャパンも同時期に、日本市場でクラウド事業を本格展開することを打ち出し、専任組織を設置。さらに昨年4月には東京と大阪にデータセンターも設け、クラウドサービスを国内で自ら運営する体制も整えた。