実は、国立競技場をエンターテイメントも含めた多目的の総合スタジアムとして稼働させていくことこそ、後世にレガシーとして長く継承できる方策なのです。

 90年代からオリンピックの巨大化の陰の部分として、大会で使用した巨大スタジアム等の施設の維持管理が開催地の負担となってきた経緯が指摘されてきました。近年はロンドンのように、大会中は仮設のスタンドも含めて大きくし、終了後はコンパクト化する等の効率化が進んでいます。もう一方で、これは箱物ビジネスの基本ですが、施設の稼働率を上げて「稼ぐ」ことで、スタジアム自体の維持管理を賄うのが重要です。そこでスポーツ以外に稼げるコンテンツがエンターテイメントになるわけです。

 国立競技場、いや、「新国民立スタジアム」の構想を考えていく上で要諦となるのは、スタジアムを使って、その都市の価値をいかに上げていくか、ということです。

未来への投資をするのか
浪費として縮小するのか

 1964年の東京オリンピックは、日本が先進国に昇り詰めるためのハードレガシーを残す意義がありました。つまり新興国としての開催でした。一方、2020年のオリンピック・パラリンピックは成熟国家にふさわしいソフトレガシーを後世に継承することに開催意義があります。東京招致が達成できたのも、ソフトレガシーの重要性を訴え、IOCに理解されたからだと言えます。

 アドビシステムズ社がアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本の18歳以上の5000人に調査したアンケート(2012年)では、「最もクリエイティブな国が日本、最もクリエイティブな都市は東京」という結果が出ました。EXILEやSMAPといった日本の大人気アーティストは、アジアでも人気を誇っており、新競技場で披露される日本を代表するスターたちのライブパフォーマンスはインバウンドのコンテンツとして魅力的です。

 一方で、2019年春のスタジアム完成後に誰もが知っている外国人アーティストのコンサートがほぼ決まりかけているのに、もしも屋根ができなかったら、これもキャンセルにせざるを得ないという話もあります。こうしている隙に、エンターテインメントのアジアの中心を、他の国に取られてしまうのです。ソフトパワーをめぐる都市間競争だということを、もっと意識してほしいと思います。

 エンターテイメントだけでなく、2022年W杯招致案の「フルコート3Dビジョン」のように、ICTを活かしたクリエイティビティーも発揮したいところです。実際、急速に進化するAI(人工知能)やロボットの見本市・イベントを、2020年のオリンピック期間中にスタジアム周辺で開催する構想が動いています。

 新しい競技場を巡る昨今の議論は、「切る」話ばかりになっていないでしょうか。日本が世界に冠たる「知的立国」「美的立国」として、学術、芸術、医療、観光、エンタメ等のソフトパワーを見せつけ、東京がクリエイティビティーのエンジンとなるためのチャンスが目の前にあります。新国民立スタジアムがその起爆剤になるために未来への投資をするのか、それとも浪費として縮小するのか、その観点からぜひ今後議論していただければと思います。