G7での埋立て反対合意で
お互い譲歩が難しい状況に

 米国は「公海の自由を守る」と言うが、米国の商船あるいは米国に向かう民間船が南シナ海を通ることはまれだ。中国は海運による貿易でも、造船、漁業でもいまや世界一の海洋国家だから「公海の自由」の原則は中国にとって核心的国益のはずで民間船舶の航行を妨げることは考えにくい。

 米国の言う「公海の自由」は実は「偵察の自由」に近いと言えよう。公海とその上空ではどの国が偵察しようが、演習をしようが本来は自由だが、逆に日本や米国の領海、領空の近くで中国の潜水艦や航空機が頻繁な偵察活動を続ければ反感が高まるのは不可避だ。

 中東から日本に向かうタンカーは、もし南シナ海で紛争が起きれば、インドネシアのバリ島の東、ロンボック海峡を抜け、フィリピンの東を通ればすむことだ。航程が1500km、2日余り延びるが、30万t級の巨大タンカーの海上運賃は極めて安いから、迂回しても1リットル当たり多分15銭程度の差にすぎないだろう。

 だが万一米中がこのまま衝突コースを変えず、武力紛争に到れば、両国の経済関係は断絶する。中国が1.2兆ドル余り保有する米国債の暴落や、中国が3.9兆ドル(約480兆円)の大半を運用しているウォール街でのパニックが起こりかねない。中国にとっても最大の輸出市場、最大の融資・投資先である米国の経済の混乱は大打撃だ。日本の輸出は中国向け(香港を含む)が昨年23.3%、米国が18.5%だったし、米中の経済麻痺は世界に波及するから、まさに日本の「存立危機事態」となる。

 習近平主席は9月に訪米が予定されているから、米中の外交当局は必死でこの問題の落とし所を模索するだろう。例えば、中国は人工島に航空部隊を常駐させない、そこを含む防空識別圏は設定しない、航行の自由は妨げない、代わりに米国はある程度偵察活動を自制する、といった申し合わせが両首脳間で出来れば衝突は回避されるか、とも考える。

 だが中国はすでに「主権」を旗印に掲げただけに譲歩しにくい。米国も6月7日からのG7で安倍首相が主唱した形で「埋立て反対」の合意ができたため退路は狭まった。安倍首相はオバマ大統領の昨年の忠告の通りに「口を慎み」米中対立を煽らない方が賢明ではあるまいか。