また、この結果を受けて、梁振英・現行政長官は「香港の大部分の市民は2017年の普通選挙を望んでいたし、普通選挙法案に賛同を示していた。結果的に法案が白紙に戻り、香港の民主主義が挫折したことに対して、私を含めた香港政府、そして広範な香港市民はとても失望している」(筆者注:香港大学が実施した最新の世論調査では、法案に賛成が47%で、反対が38%だった)とコメントし、「これからの2年間は経済や民生問題に集中的に取り組む」と、残り2年となった任期への意気込みを語った。

新たな局面に入った香港の政治情勢
市民が“勝利”と思うなら時期尚早

 6月18日を境に、香港の政治情勢を巡る動向は1つの区切りを迎え、新たなフェーズに入っていくと言える。以下、本連載のテーマである「中国民主化研究」という視点から、境目の向こう側を考えるためのインプリケーションを導き出してみたい。

 “偽の民主主義”にNOを示し、中国共産党が用意した普通選挙法案という枠組みの中で、香港における今後の民主政治が形作られるのをとりあえず回避したという意味において、香港は(どれだけの役人や市民が本心から賛成しているか、反対しているかはさておき)北京の中央政府に対して“民主の力”を見せたと言える。

 中国共産党指導部が作成した“中国の特色ある普通選挙改革法案”をもってしては、中国に返還されて約18年が経つ香港の市民社会すら納得させられなかった、という結果的事実が意味するところは小さくない。自国の主権が及ぶ範囲内において、あの百戦錬磨の中国共産党にも、思い通りに運ばない物事があるということだ。

 その意味で今回の否決は、中国共産党に対して、考え方や価値観が自らと異なるプレーヤーとどう意思疎通をし、共存の道を探るのかという政治や経済、内政や外交などすべての分野に深く関わる問題を、再考する機会を与えたと言える。これから国際社会において“責任ある大国”として振る舞っていくことが求められる中国にとっては、避けては通れない道であるし、再考の仕方次第によっては、中国・香港双方にとって建設的なケーススタディともなるであろう。

 一方で、仮に香港の市民社会が今回の結果を以て“勝利”を確信しているとすれば、それは時期尚早甚だしいと言わざるを得ない。確かに、全人代の常務委員会が“決定”した普通選挙改革法案は中国の特色ある産物に他ならず、自由民主主義国家が実践してきた民主選挙とは相容れないものである。

 とはいうものの、これまで香港市民はいかなる状況下においても投票する権利を与えられていなかったことを考えると、同法案は1つのステップと解釈できなくもない。仮に現状が0で、真の意味で公正で民主的な普通選挙を10、同法案が示す選挙を3と定義するとして、少なくとも、香港の民主化という文脈から考えれば、0よりは3のほうが進歩的だと言える。