この十数年で多くの社員が、そんな体制に嫌気がさして辞めていった。優秀な者から辞めていき、残ったのは転職ができない30代半ば以上の冴えない社員ばかりとなった。特に女性が残る。辞めていく人は後を絶たず、入社式は年に7~8回にもなる。この会社の社員は280人程度、業績は売上が50億円前後で、20年近くその水準に留まったままだ。上場はしていない。

 森は、悪しき流れを断ち切りたいと思った。しかし、それが上手くいかない。社長は、そのときの気分でころころと態度や考えを変える。それに拍車をかけるのが、専務の白石だった。

 日和見主義のこの男は、自分の考えを持たない。社長の思いを感じ取り、それを代弁する。それ以上のことができない。同世代の50代後半の男性は、大半が辞めている。「不戦勝」に近い状態で、役員になった。課長、部長のときにさしたる実績は残していない。

 18年ほど前、現在の社長が就任した直後に取り入って、「企画室」という部署をつくった。どさくさ紛れにそのトップに強引に就任し、自動的に部長となった。優秀な男性は次々と他部署に追い出すが、女性社員はおとなしければ優遇する。この男には「公平」という概念がない。

 そこは今に至るまで1円も稼いでいない部署であり、何をしているのかも、社内から実は見えない。

社長や専務の息がかかった
いわくつきの女性たちが次々昇進

 森が自席に戻ると、社内のイントラの私信にメッセージが届いていた。相手は白石だ。

「早く人事異動リストをつくってもらいたい。明日夕方には、私のところへ持参し、説明をしてほしい」

 森は呆れ返った。もう、こんなことの繰り返しなのだ。決まったことを覆えされ、それまでとは全然違う結論になる。今度は最初に皆で検討した内容とは違う部分に難を指摘され、人事案を仕切り直すハメになる。社内にはこんな無節操なことが蔓延している…。

 

 森の部下である人事総務課長の金田も、2人だけの場でこんなことを口にする。

「全社的に、それぞれの社員の役割分担や権限と責任のあり方が常に曖昧にされ、問題が問題として残る体制になっている。そこでは、必ず優秀で誠実に取り組む者が損をする。それに異論を唱えると、『協調性がない』と異端扱いをされる。間違った体制に従う者のみが受け入れられる。こんなことでは、この会社はダメになる……」