仕事からのリタイアを間近に控えて、都市部で住み替えをしたいという人が多い。そこでシニアの間で人気が高まっているのが中古マンションのリノベーションだ。ダイヤモンドQ編集部が、都心移住のためのノウハウをまとめた。
「リタイアしたら都会を離れてのんびり田舎暮らしをしたい」と言ったら、女房に「勝手にどうぞ。私は行かないわ」と言われたよ─-─-。ある大手企業の社長インタビューで、そんな話を2度も聞いたことがある。
長年、大都市の人混みの中で働いてきたサラリーマン社長にしてみれば、田舎の豊かな自然に対する憧れがあったのだろう。しかし、奥さんの方は、夫の世話から解放されたら、「都心に住んで友達と芝居や美術館を巡ったり、料理もデパ地下でおいしいものを買ったりして楽しく暮らしたい」と思っていたわけだ。
都市部での住み替えは、この奥さんのように明確な目的や生活イメージを持っている人が多いのではないだろうか。物件選びも目的に合った立地が最優先。賃貸もいいが、終の棲家になるかもしれないと考えると、購入したいところ。
購入でも、新築にこだわるよりも、立地で物件選びがしやすい中古住宅が賢い選択だ。最近ではリノベーション済み住宅に加えて、中古住宅を生活スタイルに合わせてリノベーションしてから購入するシニア層も増えてきた。
大規模改修で
建物に命を吹き込む
一般的に、リフォームは老朽化した建物や設備を、新築時と同程度に戻したり改良したりするものだが、リノベーションはより大規模な改修工事を行い、建物に新たに命を吹き込み、価値を向上させる。
リノベーション最大手のインテリックスの調査によると、30代までは新築マンションを好む傾向が強いが、40代、50代とリノベーションマンションを選ぶ比率が増える。「子供も独立して二人暮らしなので前の住所の近くで、狭くても利便性の良い駅近のマンションを選んだ」(50代男性)、「老後の生活が不安なので、娘の住むマンションに歩いていけるマンションを購入した」(70代女性)と物件選びの理由は明快だ。
リノベーション物件の販売を手掛けるリビタ・シニアプロデューサーの斉藤渉氏も、「リノベーション物件とシニア世代の相性は良い」と言う。「子供が巣立って家の大半を使わなくなり、庭の草むしりも大変、マンションの方が管理も良くて気楽、と都心の中古マンション購入を選ぶ人は多い」(斉藤氏)。
こだわりの中古住宅やリノベーション物件を多数扱う不動産サイト、東京R不動産を運営するスピーク代表取締役の吉里裕也氏は、「郊外の庭付き一戸建てが憧れだった時代に比べて今は価値観も多様化している。コミュニティが高齢化し交通の便の悪い郊外のニュータウンでは、将来、売るに売れなくなってしまう事態も起こり得る。郊外の一戸建てを売って都心の中古住宅へ移る流れは今後増えていくだろう」と予測する。