すばらしい人を集めても
自分が信頼されなきゃ成功できない

稲盛和夫(いなもり・かずお) 1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。10年に日本航空会長に就任し、代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。また、若手経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。主な著書に『生き方』(サンマーク出版)、『アメーバ経営』(日本経済新聞出版社)、『働き方』(三笠書房)、『燃える闘魂』(毎日新聞社)などがある。
『稲盛和夫オフィシャルサイト』

 確かに、お金に代表される物質的なものは、事業を行っていく上で必要なものですし、一方、人の心は、非常に頼りにならないものでもあるわけです。信じ合える間柄の仲でも、裏切られたりだまされたりするようなことは、日常茶飯事です。

 非常に移ろいやすく、はかないのも人の心ですが、同時に、人の心ほど、どのような逆境の中でも頼りになるものもありません。私は、すばらしい人の心をベースに経営をしていくことにしました。

  経営のベースを決めた後、私は「頼りにならない心もあれば、頼りになる心もある。その差はどのようにして生じるのだろうか」と考えました。その当時、私は27歳ととても若かったのですが、「これからは人の上に立って一生懸命人を指導し、人の生活の面倒を見なければならない」という責任を感じていましたので、真剣に考えました。

 そして「すばらしい人の心を求めても、自分の心がすばらしいものでなければ、決して立派な心をもつ人たちは寄ってこないだろう」という結論に至りました。同僚や部下からの信頼に値するような心を、自分自身がもっているかどうか。そのことが大事だと思いました。従業員に信頼されるに足る心を経営者自身が育てていかなければ、事業はうまくいかないだろうと思ったわけです。


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