前回の記事「“意識低い系”社員を本気にさせる!社長のコミュニケーション術」は、たくさんの方にお読みいただき、嬉しく思います。テーマは社員のモチベーションをどうやって高めるか。その一つとして社長のコミュニケーション術に注目してみました。

 一方で留意したいことがあります。社員のモチベーションを高める方策として、これを賃金制度の観点から「成果主義がやる気と業績をアップさせる」というお考えの経営者、人事担当者の方も多いと思います。しかし、18年、中小企業の現場を見てきた私の結論は、これは間違いです。そのように申し上げると、驚かれる方も多いでしょう。

 成果主義とは何でしょうか?一言で言えば「頑張った分だけ報われる」ということです。営業担当者であれば、営業成績等に応じて評価した結果を、給与や賞与に結びつけますので一見すると合理的に思えます。しかし、中小企業だからこその「落とし穴」が潜んでいることは意外に知られていません。

お金で動く社員はお金で去っていく
“人参”をぶらさげるだけは逆効果

 5年ほど前のことです。

「山元さん、営業成績ナンバーワンの社員にまた辞められてしまった。どうしましょう」

 ある中小企業の社長さんがSOSで当社に駆け込んできました。聞けば他社のコンサルタントの指導の下で、ギチギチの成果主義を反映した人事評価制度を導入して、一時的に売り上げが好転したものの、社内のトップセールスマンが辞めてしまったというのです。野球で言えば、「エース」「4番打者」として社内では位置付けられていました。

 この会社は従業員数が20人規模でしたが、その社員が辞めた原因を探ると、どうやら大手の競合に引き抜かれたようでした。当時はリーマンショックの後で、世の中の景気がどん底ムードの頃です。厳しい経営環境にあって会社全体の業績が伸び悩んでいた中でも、彼は頑張っていたわけですが、ある日、突然自分の会社に見切りをつけたのです。成果主義を取り入れて逆効果になった典型的な事例です。

 私が長年、中小企業の人事評価制度に関わって確信したのは、「お金で動く社員は、お金で会社を去っていく」ということです。景気が回復した昨今は、失業率が若干3%台に下がる“完全雇用”のご時世ですから、中小企業は大手との人材獲得競争に遅れを取りがちです。「人参をぶら下げれば社員が目の色を変えて働くぞ」と経営者が口にする(実話です)ようでは、ますますお金で動く人が出てきかねません。