「世の中を変える」という世界的トレンド

 たとえば、広告界の最高栄誉のひとつ「カンヌ国際広告祭」。この広告祭では、2009年に「オバマの選挙キャンペーン」にグランプリを与えた。当時は「これが広告か!?」という批判もあったが、カンヌは「これこそが、これからの広告だ」ということを明確に示したのだ。広告クリエイティブの流れが大きく変わった瞬間だった。実際、そのときの広報部長は「カンヌはもはや単なる広告祭ではなく、コミュニケーション祭だ」と発言している。

 その「カンヌ国際広告祭」自身も、2011年に「広告」の言葉を外し、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」と名称を変えた。これは「広告は単に、企業や商品の宣伝ツールではない。まさに、クリエイティブには世界や未来を変える力がある」という、カンヌの意志を伝えるメッセージだったと思う。また、実際に僕が親しいクリエイターも、こうした方向性(世界や未来を変える力)で真摯に仕事に取り組んでいる人間が多い。

 このような広告クリエイティブの流れと、東京五輪のビジョンを結びつけて考えれば、今回の五輪エンブレムのデザインも、何かしら「世界や未来を変える力」を感じさせるものでなければならないということになる。廃案となった例のエンブレムデザインに、そのような力を感じるかどうかは意見の分かれるところだと思うが、組織委員会の説明からは、そうした力を感じさせる説得力はなかったように思う。

 余談だが、個人的には、オリンピックのような国家的イベントのデザインには、やはり、その国独自の文化を感じさせるものが良いデザインではないかと思う。北京オリンピックのエンブレムにはやはり中国を感じさせたし、ピョンチャンオリンピックのエンブレムからはやはり韓国を感じた。前回1964年の東京五輪のエンブレムにも、ストレートに日本が表現されていた。

 今回、エンブレムのデザインを見直すのであれば、今度こそ「これが日本」というデザインを選んでほしいと思う。それは何も日本人デザイナーを起用しろと言っているわけではない。日本の文化へのリスペクトがあり、日本を感じさせるデザインであれば、欧米人でも韓国や中国のデザイナーの案でも問題ないだろう。デザインは表現されたものが全てだからだ。

 マンガの世界ではいまや、韓国のマンガ家が日本人並のクオリティで「日本のマンガ」を描いている。ヨーロッパのクリエイターでも、日本のカルチャーが大好きでリスペクトしている人間も多い。そこから「ジャパンクリエイティブ」みたいなデザインが出てきてもおかしくないだろう。