企業の人事部門で重要テーマになっている「研修の内製化」。
5年ほど前から内製化に取り組むソフトバンクは、どのような考え方に基づき、プログラム開発を進めてきたのか。
連載最終回は、社内講師のトレーニング方法と、講師登用の効用について語ってもらった。

内製研修で社員の前に立った時
最初の5分で全てを見抜かれる

 弊社では、新しく認定された講師は全員、TTT(Train the Trainer)というインストラクションの基礎を学ぶ半日研修を受講します。私自身がプログラムを開発し、実施しています。

 講師は、業務経験やノウハウ、そして思いを中心に判断して認定していますので、全員が研修のインストラクションの基礎ができているかというと、必ずしもそういうわけではありません。

 このプログラムでは、立ち姿勢、発声、ジェスチュア、アイコンタクトなど基礎を徹底的にトレーニングします。なぜならば、社内講師が実際に内製研修の場で社員の前に立った時、最初の5分で全てを見抜かれるからです。

「この講師緊張しているな?」とか「声が震えているな」、「この人本当に大丈夫なの?」のような不安を参加者が学習を始める前に感じさせてはいけないと思っています。そのためには、徹底的に基礎をトレーニングする必要があります。

 受講者の前に立った瞬間に、堂々とその研修を楽しみながらスタートできるくらいの余裕があるのがちょうどいいと思っています。初回の登壇日から、自信をもって業務での経験やノウハウを伝えてほしいからです。

 初めの入りが安定すると、参加者である社員も講師を気にすることなく、学習する内容に意識が向くと思っています。

インストラクションスキルを
スキルマップとして体系化

 内製化を立ち上げた当初は、このTTTプログラムの基礎的なスキルで十分だと思っていましたが、認定講師陣は登壇後に「もっと上手に研修を進めたい!」「もっと受講者を巻き込める方法を知りたい!」といった非常に前向きな要望を伝えてくれました。

 これらの要望に育成担当者としては、インストラクションのスキルアップ自体を、社内講師を長く続けてもらうためのモチベーションとして位置づけ、講師としてのスキルを向上するための全体像を示すことにしました。

 具体的には、インストラクションスキルをスキルマップとして体系化しました。ゼロから作りましたのでソフトバンク完全オリジナルの講師スキルマップとなります。

 具体的なスキルマップの中身としては、話し手の意図を伝えきるための「伝達力」、受講者を飽きさせないようにするための「演出力」、さまざまな受講者にどのように臨機応変に対応していくかという「対応力」の三つのカテゴリーに分け、さらにレベルを「二つ目」「真打」「匠」の三段階に分けて、スキルをマッピングしました。

 なお、下位の「二つ目」は、初めて社内認定講師(ICI)になる方に、登壇する前に必ず受けてもらう先ほどのTTT基礎編のスキルとなります。その上の「真打」「匠」は、「伝達力」「演出力」「対応力」というカテゴリーごとに応用プログラムを用意しています。

 ちなみに、基礎編、応用編の全トレーニングは、私自らがプログラム開発し、約100名ほどいる講師陣のスキルアップ講座を担当しています。

 人事の講師陣は、自らそれらを体現できるように日々研鑽を積んでいます。ここも一つの特徴だと思っています。

 これは、人材開発側の講師と現場の認定された講師との役割の違いでもあります。

 人事側の講師は、現場の社員に比べると、業務経験やノウハウは多少、劣るかもしれません。ただ、インストラクションスキルや研修デザインの考え方は、常に一歩先を行っていないとダメだと考えています。

 私たち人事の講師陣は、スキルマップにある要素を自ら体現するとともに、それを体現するためのトレーニングを用意し、認定された講師をリードしていく存在でなければならないと思っています。