日本航空が更生計画の骨子となる「新再生計画」を策定した。人員や路線のリストラを前倒しで加速する内容だが、国土交通省も主要銀行もさらに踏み込んだ縮小均衡を要求している。その攻防の全容に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 遠藤典子、津本朋子)

 「それなら前原(誠司国土交通相)が社長をやればいい」──。日本航空(JAL)再建を託され会長に就任した稲盛和夫氏は、周囲に不快感を隠さなかった。
会社更生法の適用申請から1ヵ月後の2月22日、JAL管財人である企業再生支援機構の中村彰利専務は、国交省幹部から「国際線の再編案について」と題したペーパーを受け取った。

 それは、「事実上の国際線撤退勧告」(JAL幹部)だった。(1)堅い見通しの下でも利益が見込める(具体的には、本社経費負担分を除くすべての費用を差し引いた二次貢献利益が10%以上の)路線に限定、(2)全日本空輸(ANA)との競合等により、利益の上がりにくい路線からは撤退、(3)アライアンスパートナー等の提携企業との路線展開上、必要な路線は維持、(4)わずかな路線しか残らない空港については全面撤退、これら4つの基準が明記されていた。

 これを2006~08年度の平均収益率に当てはめた場合、現在運航中の57路線のうち36路線を廃止せざるをえない(下表参照)。

拡大画像その1その2

 当然、路線廃止に伴う営業収入の減少は、それ以上のコスト削減で賄わなければならない。したがって、支援機構による事業再生計画で2700人とされている特別早期退職者について、1万人を超える上積みが必要だとしている。

 そこまで踏み込んだ国交省案を見て、稲盛会長は冒頭のような不満を漏らしたのだった。これまでの記者会見の席では「国際線のないJALはイメージできない」(2月1日)、「採算が合うようにできないか模索している」(3月17日)と、あくまで国際線に執着する姿勢を見せた。

パイロットを含む4868人を追加削減

 国交省案が提示されたとき、JALではすでに経営企画部門を中心に、支援機構や大口債権者である日本政策投資銀行の管財人らが加わり、更生計画の立案に着手していた。なにしろ、更生計画案の東京地方裁判所への提出期限は6月末、更生計画の認可および更生手続き終了は8月末に迫っている。メガバンクなど債権者の合意を取り付ける折衝期間を考えれば、「遅くとも2月末には骨子を固めたかった」(支援機構幹部)。

 JAL幹部は、「機種とパイロットの組み合わせなどを考慮した現実的な路線削減案を練るのに、時間を要した。路線収益で一律に切り捨てる国交省案は、ナンセンス極まりない」と振り返る。こうして、国交省案を無視するかたちで、3月31日に「新再生計画」がまとまった。