全てが平均点の店

「――という感じなの。昌ちゃん」
翌日、はるかは昌一郎の元を訪れ、率直に話をした。
「なるほどな……それはわかった。で? もう少し詳しくお店のことを教えてくれないか?」
「うん。あのね……」
はるかが話した内容は以下のとおりだった。

・美味しいか美味しくないかと言われたら、美味しい
・接客が良いか悪いかと言われたら、良い
・お値打ちかお値打ちじゃないかと言われたら、お値打ち
・良いお店か悪いお店かと言われたら、良い

「つまり、一事が万事、全て平均点以上なの。でもそれだけで……とにかくインパクトがない。だからリピートにつながらないんじゃないかって……」
「でも、35年続いてるんだよな」
「そうなの。不思議な感じのお店なの。厳密に言うと、例えば昌ちゃんがたまに連れて行ってくれる高級な焼肉店と比べたら肉質は良くない、もちろんお店作りも。でもその分、値段も安い……でも、普通にファミリーで行くような焼肉屋さんに比べたら断然美味しくていいお店で……でも、そこに比べればもちろん値段は高い訳で。だからどうなの? という話になると、とにかく普通って思ってしまうの。でも、何もかも平均よりも上なのは確かなの」
「なるほど……結構難しいってことだな」
「うん、かなり難しいと思う。ただ本当に落ちている原因はほかでもなくユッケとレバ刺しによるものだと思える。だからこそ、別の切り口で持っていかないといけないんじゃないかと」
「別の、とは?」
「それはまだ分からない。まだぼんやりしてるから。でも多分、みんなと接するうちに明確になってくると思う。単純に客単価が300円落ちてて、焼肉離れで客数も減ってる訳だしね。ちょっとやそっとじゃ上手くいかない気がするよ。じっくり考えながらやる」

「そうか、わかった。で、いつから行くんだ?」
「うん、シフト調整すれば来週からかな」
「なるほど……でな、はるか。じつは、ここからが今日の本題なんだ」
「え? 本題とかあるの? 何? ちょっと怖いじゃん」
「うん、今回は敢えてアルバイトとしては入ってもらわないことにした」
昌一郎はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。