私がコンサルタント!?

「今回は宇佐美君と話して、きちんとしたコンサルティング契約をすることになった。なので、はるかはK’sから派遣されるコンサルタントということだ。だから取り組みとしては月に2日だけ。それで半年間取り組んで、業績を上げなさい。それ以上は入っちゃだめ」
「え~~~そんな~~~マジで~~~無理だよ~~~」
はるかは昌一郎の言葉に驚きを隠せず、頭の中が真っ白になった。

「大丈夫だよ、はるか。お前ならできるって」
「いやいや昌ちゃん、これ、無理でしょ……。何でそうなるの?」
「真面目な話、現場に入って一緒に仕事をして……というのは、この先通用しないんだ。パッと見てすぐに問題点を指摘し、スピーディに改善する。プランを立てて、やらせて、チェックする、そしてまた改善。現場に入らないとこれが出来ないようでは全く意味がない。というよりも、はるかはこれまでの取り組みで既にそのレベルに達している。
だからこそ今回は、現場で手を出さずに、外部から改善してもらいたいというわけだ。うちに来るにしても、はるかを現場スタッフとして欲しいわけではない。最低でも本部のサポートスタッフとして始めてもらわなければならない。
だからぜひ、内定をきちんと出せるかどうかの試験としてこの状況に取り組んでもらいたいんだ。やれるな、はるか?」
昌一郎は、厳しいながらも優しい口調で諭した。

「うん、わかった。意味も意図も理解できる。私なりのチャレンジだね」
「そういうことだ。頑張ってこい。まぁ、そうは言っても、いきなりコンサルタントとしてやれって言われても、どうしていいのか分からないだろ?」
昌一郎はそう言うと、はるかに優しく微笑んだ。

「そりゃそうだよ。昌ちゃん。さすがにどう入り込んだらいいのかは難しいよね。しかも私、まだ学生だからみんなが話を聞いてくれるかどうか……」
「ま、そうだな。ということで、最初のセッションだけは私がやってあげよう。あとは、はるかが1人でやりなさい」
「え? ホントに? そんなんあり?」
はるかは驚いた様子で、キョトンとした表情を浮かべた。

「うん、特別にな。はるかの勉強だからさ。とにかく一度やってみるから、よく私のやり方を見てるんだよ。と言っても、もちろん私もコンサルタントが本業ではないからな。まぁ我流だけど、私流のやり方をよく見てみなさい。絶対にはるかの勉強になるから」
「すごい、昌ちゃん。本当にいいんだ。何か少しやれる気がしてきた!」
「はるかもわかりやすいな。ちなみに私がセッションやることは、あすみには絶対内緒な。知ったら、あいつ絶対怒ると思うから」
「間違いないね。絶対、内緒にしなきゃ。マジでキレそうだもんね……」
2人は目を合わせて大きく頷いた。

こんなやり取りの後、はるかは下を向いて少し沈黙し、大きく一息ついていつもの敬礼をした。
「了解です! 私、きっちりとこのミッションをやりきってまいります!」
「うん、頑張れ。宇佐美君には、何でもはるかの言うとおりにやるように、若いからってなめてかからないようにと言ってある。スタッフのみんなにもそう伝えてくれってね。
コンサルタントとして最も面倒なのは、クライアントが自分から頼んでおきながら反論ばかりで一切受け入れないことだからな。医者が診察して処方箋書いてくれたのに、その薬を飲まなければ治るわけがないってことだ。その意味では、受け入れ体制はバッチリのはずだから。大丈夫! 頑張りなさい」
「昌ちゃんありがとう。私、頑張る。とにもかくにも思い切ってやってくる」
「うん、その意気だ。まずは一度、宇佐美君と下打ち合わせしてきなさい。最初は私がやることも、宇佐美君にはもう伝えてあるから。安心して行ってきなさい」
「ありがとう昌ちゃん。本当にありがとう。私、頑張るよ!」

こうしてはるかは、普段どおり『鮪馳』でアルバイトしながら月に2回だけ『味樹園』の会議に参加することになった。
まさかコンサルタントとしてのデビュー戦をこんなに突然迎えることになるとは……はるかは嬉しい反面、不安で胸が一杯だった。

数日後、はるかは宇佐美と会うために武蔵小金井の本店まで出向いた。