君たちは何のために生きている?
「まぁ、そういうもんだろうな。でも、実際に将来、君たちはそのような状況に出くわすかもしれないんだぞ。どうするんだ?」
昌一郎の問いかけに対し、明確な答えを返せるものはいなかった。
「そうだよな。どうすればいいのかなんて、今は分からないよな。でもどうする? 生活のために転職するか? そうすれば生活できるかな? 私の経験上、答えはNOだ。飲食店で働いているスタッフの多くは転職してもまた飲食店に勤める。それで待遇が良くなるのか? 結局は肉を切っていたのが魚を切ることに変わるくらいのもので、待遇なんて大して変わるものではない。それは、これまでに飲食業界で転職した者ならば経験済みではないかな?」
みんな、昌一郎の話に納得と言った表情で聞き入っていた。
「でも一つだけ、今以上に良い待遇を得ることができそうな方法がある。50歳になった時に困らずに済むかもしれない方法だ。というよりも、お金どうこうよりも充実した人生を送る方法があると言ったほうがいいかもしれないな。平たく言うと物心両面で、ということだ。それが何かわかるかな?」
昌一郎は声のトーンを変えてみんなに語りかけた。みんなはキョトンとした顔で昌一郎を見つめた。はるかはその場の雰囲気の全てを昌一郎が思うままに操っているのだということに気付き、思わず背中がゾクッとした。
「質問を変えよう。みんなはこの会社が好きか? 社長のことが好きか?」
全員が昌一郎の言葉に対し、強く頷いた。
「そうか、それは良いことだ。ではみんな、この会社をもっと大きくする気はないか? せっかくなら自分の好きな社長の下で自分たちの好きな会社の業績を伸ばしてみたくないか? それが一番の近道だと思わないか? みんなが知っているK’sだって最初は1店舗だったんだ。もう30年前のことだけどな。でも今や、店舗数は1000を超える。どんな会社も最初は小さいんだ。でも、みんなの努力で大きくなったんだよ」
全員が昌一郎の言葉に頷くしかないといった様子で聞き入っていた。
「少し話を変えて続けよう。人は何のために生きているのか、生きる目的は何かという話だ。君たちは何のために生きている? すぐに答えられる人はいるかな?」
こうなると、何もかも昌一郎の独壇場だった。
「私はね、人は幸せになるために生きているのだと思う。生きる目的、仕事をする目的は幸せになるためという答えでいいのではないかと思っている。
ただし、幸せの価値観というのは誰もが違う。たくさんのお金を持っていても不幸せだと思う人もいれば、お金がなくても好きなことができて幸せだと思う人もいる。だから、その幸せの価値観について話し合う気はない。
ただ、一つだけ私が思う『幸せとは何か?』についての答えがあるんだ。それはね、その人が思い描いたとおりの人生を送れるということなんだ。自分がこうありたいと願う人生が送れること。仕事にもやりがいがあり、人に必要とされて、何より生きている実感を持てる環境にいて……そんな、それぞれの人が、自分が描いた理想の人生を胸を張って送れるということが、一番の幸せなのではないかと思っているんだ」
昌一郎は時に静かに、時に熱っぽく、しかし淡々と話を続けた。
「では、さっきの質問の答えだ。みんなが充実した人生を送る方法。その答えを教えよう」