──では最後に、この舞台をどんな人に観ていただきたいか教えて下さい。

古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

古賀 原作の『嫌われる勇気』やアドラー心理学に対して、疑問や疑念を持たれている方は多いと思います。アドラーの言っていることは理想論だとか、自己啓発っぽくて怪しいとか。そういった方にこそ、この舞台を観ていただきたいですね。
 おそらくそれは、岸見先生やぼくが初めてアドラーに触れたときの疑念であり、演出・脚本の和田さんがいま現在アドラーに対して抱いている二律背反な心情と同じだと思うので。
 この舞台を観れば何かがわかるとか、舞台のなかで答えが提示されているというわけではありません。むしろ、明確な答えは提示されない。ただ、最後の最後に小さな希望の光だけが提示されて、観客はそれぞれラストシーンの意味について考えることになる。
 僕自身、その答えを確かめるため、また観に行きたいと思いますし、ぜひ多くの方々にも観ていただきたいです。

岸見 アドラー心理学というのは、必ずしも文章を読むだけでは伝わりにくいところがあります。その代表的なものが「共同体感覚」という思想です。もちろん原作の『嫌われる勇気』では言葉を尽くして説明していますし、かなり伝わっていると思います。ですが今回の舞台化で、演技されている方たちの距離感がどんどん変わっていくやり取りを観れば、あぁこれがアドラーの言う共同体感覚であり、人を信じることや人を仲間だと感じるということなのか、と非常に具体的に理解できると思います。
 本を読んで「どういうことなんだろうな」と思った方が、舞台を見ると「あぁ、そういうことなんだ」と腑に落ちるのではないでしょうか。そうした意味でも、ぜひご覧いただきたいですね。

(終わり)