アドミラルナースの
活躍の実態

 一方でアドミラルナースの実績を評価し、増員した地区もある。ロンドンの南東、サットン区だ。この夏に1人から3人に増やすことになった。自治体でアドミラルナースを活用しているのも、このサットン区だけだ。

 英国では、社会福祉(Social Care)は自治体が責任を持つが、医療は国がNHS制度で担う。従って、「自治体が看護師を起用することはまずない」とサットン区サービス局長のサンドラ・ロッシュさんは説明する。

 アドミラルナースを活用することになったのは、サンドラさんが出合ったある「事件」による。自治体の関連組織の担当者に、認知症の人と暮らす家族の日々の苦悩や辛さを支えてはどうか、と訴えた。だが、理解してもらえなかった。その担当者は「仕方ないじゃない。だって、認知症になったのだから」と言われたという。

 そこでサンドラさんは、自身とシステムの力不足を感じた。認知症をきちんと理解し、家族の声に耳を傾け、相談に乗って適切なアドバイスができる専門家が必要だと感じたのだろう。その強い思いがアドミラルナースを引き寄せたようだ。

 家族介護者の支援活動をしている地元のNPO、「サットン・ケアラーズセンター」がサットン区に働きかけことも、アドミラルナースの導入に大きな効果があった。

「自治体が活動費を負担するように私たちが運動した」と、サットン・ケアラーズセンターのCEO、レイチェル・マクリードさんは胸を張る。

 そして、昨年着任したアドミラルナースのアニーさんの活動は、目を見張るものがあったと言う。この8月に2番目のアドミラルナースとしてやってきたビンセント・ゴドバリーさんが、アニーさん本人に代わって話してくれた。

「まず、地域内のすべてのサービス提供者に話を聞きに行ったそうです。もちろん家庭医に会えば、ほとんどの状況を把握することは可能だと思われるでしょうが、家庭医は子どもや若者の健康状態にも気配りしていますから、必ずしも高齢者の日ごろの様子をよく分かっていないこともあります」

 さらに言葉を継ぐ。

「介護家族の中にも、いつもその主役にいたくはない人もいます。その人たちを積極的に支える活動をしてきました」

 英国の家庭医は、NHS制度によりあらゆる病気を診断し処方するが、「認知症は専門性が要求される」として、メモリーサービスに委ねてしまうのが一般的だ。日本の訪問診療に熱心な診療所の医師は、「認知症も高齢者によくある症状」として真正面から取り組んでいる。この違いは、大いに議論されるべきだろう。