安倍晋三総理大臣は、新しい3本の矢を放つとした。これは、「金融緩和政策から足を洗う」という政府の政策転換の表明だ。2%のインフレ目標は、政府にとって重荷になっている。

金融緩和政策からの撤退が
明白に表明された

 安倍晋三総理大臣は、9月24日、総裁選出後初めての記者会見を行なった。その中で、「本日からアベノミクスは第2ステージに入る」とし、(1)国内総生産(GDP)600兆円、(2)出生率1.8、(3)介護離職ゼロという新しい3本の矢を放つとした。

 この中に、金融緩和政策や2%のインフレ目標は入っていない。これまでアベノミクスの金看板だった金融政策は、第2ステージでは消えたことになる。

 マクロ政策(金融緩和政策や財政拡大政策)からの撤退は、すでに6月の成長戦略(「日本再興戦略」)の中で、「デフレ脱却を目指して専ら需要不足の解消に重きを置いてきたステージから、人口減少下における供給制約の軛を乗り越えるための腰を据えた対策を講ずる新たな『第二ステージ』に入った」という形で示されていたが、それがより明確な形で表明されたことになる。

転換の理由は、経済政策失敗から
国民の目をそらすこと

 マクロ政策から撤退する理由として、それが失敗したからだとは、もちろん言っていない。安倍総理は、これまでの経済政策の成果に言及し、「(経済情勢は)もはやデフレではないという状態まで来た。デフレ脱却はもう目の前だ」と述べた。

 しかし、次項で述べるように、消費者物価上昇率はマイナスになっている。多分、今年いっぱい程度はこの状態が続くだろう。そして、さまざまな指標が経済の停滞を示している。今回の政策転換の本当の理由は、これまでの経済政策の失敗から国民の目をそらすことだ。

 安倍内閣が政権を取って以来、円安が進行して企業の利益が増加し、それによって株価が上昇した。アベノミクスの支持者は、これが成果だと言うだろう。しかし、円安による企業の利益は、健全なものとは言えない。しかも、円安によって本来期待される輸出増大効果は実現していない。

 したがって、私は株高がアベノミクスの成果を表すことにはならないと思う。株価の上昇は所得分配の悪化をもたらすだけであり、日本経済を回復させるものでも、回復の結果でもない。