東芝の不正会計騒動で話題になった「チャレンジ」という魔の言葉。経営陣が各部署に「チャレンジ」と称した無茶な収益達成目標を押し付け、その圧力が利益の水増しを引き起こさせた一件だ。東芝経営陣の過酷な目標設定には驚くばかりだが、一方で、こうした上からの無茶な要望、チャレンジは多くの会社員が経験しているのではないだろうか。ビジネスパーソンたちの「チャレンジ体験談」を聞き取り調査すると、その背景にある企業風土の課題が浮き彫りになった。(取材・文/有井太郎、編集協力/プレスラボ)

決して他人事ではない!?
無謀な「チャレンジ」を強いる職場

上からの無茶なチャレンジ要求は、多くのビジネスパーソンが経験しているのではないか。聞き取り調査を行うと、想像以上に深刻なチャレンジエピソードが噴出した

「あの部署は大幅赤字になりそうなんだよね。だから、君たちのところで彼らの利益も出してくれない?」

 大手メーカーの東芝が起こした不正会計騒動。リーマンショックが発生した2008年から2014年まで、合計で約2000億円を超える利益の水増しを行っていたという問題だ。

 これらの原因となったのが、「チャレンジ」と呼ばれる経営陣の無茶な要求。各部署に、短期間ではおおよそ達成不可能な利益目標を示し、圧力をかけた。なかには、3日で120億円の利益を出すよう求めたこともあるという。その結果、“水増し”という不正行為が蔓延していったのだった。

 このチャレンジの中心にいたのは、東芝の歴代3社長。彼らはすでに提訴される方向で、刑事責任が追及される可能性もある。国内有数の大企業が起こした動揺は、当分収まりそうもない。

 東芝のチャレンジはあまりに規模が大きいため、私たちはつい“他人事”のようにニュースを眺めがちだ。しかし、実際はどうだろう。スケールに差はあれど、このように上から無茶な要求をされた経験は、多くの会社員が持っているのではないだろうか。

 社員に「チャレンジ」を強要する職場とはどんなところで、そこでは実際にどんな「チャレンジ」が行なわれているのだろうか。現役の会社員にアンケートを行ない「チャレンジ」の体験談を聞いてみた。

 その結果、多くの人々が自身に降りかかった想像以上に深刻なエピソードを明かしてくれた。すらすらとチャレンジ体験談を語る人たちを目の当たりにして、「会社員でいる以上、チャレンジは免れないのかもしれない……」とさえ思ったほどだ。

 ただし、チャレンジのエピソードを集めていくと、ひどい事態が起きる企業には、ほぼ例外なくその原因となる企業風土が背景にあることも見えてきた。「チャレンジ」は、特定の部署や一過性の人間関係の中で突発的に起こる現象ではないようだ。

 ということで、巷にあふれる“チャレンジ体験談”を紹介しつつ、その裏に潜む企業風土の課題を考察していきたい。