役員の病死、社員の流出…
ドミノ倒しで組織の崩壊が始まった

 その後、組織が崩壊するのは早かった。社長がヒラ役員だった彼女を、人事総務部長兼任に抜擢し、自社株譲渡をしようとしたのを、他の役員が反対。他の役員vs不倫コンビという構図が出来上がった。そして、役員の1人がストレスのために倒れ、もともと持っていた病気を悪化させて亡くなった。社員はみなそれが、彼女の不倫によってもたらされたストレスのためと思い、あからさまに彼女に冷たくした。

 結局いたたまれなくなった彼女は、別会社に転職し、役員も、ほぼ全員が会社を去った。それまで培ったさまざまな技術の多くは、社外に流出してしまい、社長はまたスキルのない社員を一から教育していくしかなくなった。当然業績はがた落ちである。

 倍々ゲームで伸びていた会社が、短期間で没落した理由は、社長と女性役員の不倫そのものというよりも、この不倫によって社内の「情報フロー」が乱れたことにある。元専務は、社員からの意見が会社にとって有益と思えば、たとえ社長批判だろうと役員批判だろうと、吸い上げて議論してきた。そのために、ネットワークを広く張って、さまざまな意見を聞けるような体制も作ってきた。そういったネットワークの障害になるのが「派閥」だ。社内で、特に役員をかついだ「○○派」ができるのを阻止してきた。

 しかし不倫騒動以降、女性役員は自分の味方である社員からの意見しか、吸い上げなかった。社員が彼女を「社長の愛人」とみなして、腫物に触るように扱ったり、距離を置いても、女性役員の方から、彼らとの距離を縮めようと努力することはなかった。

 その一方で、女性役員と一緒の時間の時間を過ごすことが多くなった社長は、社内のことを彼女からしか聞かなくなった。社長が聞く社員の情報はすべて、彼女のフィルターを通したものだったのだ。

 社長の社員に対する行動が不適切になってきたのは、そこに原因がある。組織で何が起こっているか、偏った情報ソースに頼ってしまったため、把握できなくなってしまったのだ。

 女性役員も社長も、組織を良くしたいというモチベーションは高かった。だが、行動そのものが不適切だったから、彼らが頑張れば頑張るほど、社員の士気は下がるばかりだった。