柿安の独自ブランド「三重 柿安牛」
誕生の裏側とは?

桜井 今回のイベントで供される特別懐石メニューのメインは、やはり牛肉ですか?

赤塚 ええ、当社独自のブランドである「三重 柿安牛」を定番のすき焼のほか、ぽん酢すき焼でも召し上がっていただく趣向となっています。

桜井 オリジナルブランドのお肉ですね。

赤塚 弊社では創業早々から肉質にこだわっていて、三重県北勢地域にある自社の契約牧場で肥育から加工まで一貫して手掛けています。従来、三重県内で生産され所定の基準を満たした黒毛和牛に許された「松阪牛」として販売してきたのですが、2002年の基準改定で生産地域が限定されたことで名乗れなくなってしまったんです。

桜井 意外と知られていないことですよね。それでオリジナルの「三重 柿安牛」ブランドになったんですね。

赤塚 はい。それも今回ブランドを刷新し、伊勢志摩サミットの開催を来年に控える三重県のPRも兼ねて、「三重 柿安牛」と命名しました。従来の基準より一層厳しく、厳選された飼料で育てた雌牛(未経産)のA5ランク(最高位)に限定したんです。年間の出荷数が270頭と非常に稀少で、芳醇な香りと滑らかな口溶けが特徴です。松阪牛とともに日本三大和牛に挙げられる神戸牛は去勢した雄牛が中心ですが、あくまで私たちはきめ細やかで柔らかい肉質の雌牛(未経産)に限定しています。

「政策や環境の変化に翻弄されたり、思わぬ事態も起きますよね」と桜井・旭酒造社長

桜井 自分たちは昔から変わらないこだわりを持ち続けたつもりが、政策や環境の変化に翻弄されたり、思わぬ事態も起こりますよね。

 私たちの場合、美味しいお酒を造るうえで最高級の山田錦という酒米だけを使っているのですが、なかなか希望の量を買えない状態が続いていました。山田錦の生産量が大幅に減っていたせいで、それは日本酒の生産量が減って酒蔵が買わなくなったためなんですね。そこで、みずから全国の生産農家に買い求めたり、農家をくどいて買取契約で生産してもらうなど、山田錦をなんとか確保しようと動いてきました。すると今度は他の酒蔵から、旭酒造が山田錦を独り占めしていると非難もされています。

赤塚 しかし、それでもこだわり続けてこられたわけですね。柿安においても140余年の歴史の中で、初代からずっと受け継がれてきた信念があります。それは、(1)よい素材を見極め、(2)高い技術で提供するという「柿安の美味しさの公式」です。今回、刷新した三重 柿安牛もこの理念に基づいています。

桜井 なるほど。対談の後の食事が益々楽しみになってきました。