柿安と獺祭で相通ずるポリシー
「伝統と革新」「お客さま第一主義」
赤塚 もうひとつ、昔から当社では「伝統と革新」という言葉も伝え守られてきました。受け継がれてきたものを守りつつ、つねに新しいことに挑戦することが重んじられてきたのです。BSE(牛海綿状脳症)問題を機にお客さまの牛肉離れが顕著となった際、先代社長(現名誉会長)がデパ地下に惣菜店を展開する戦略を打ち出したのもこの教えに基づいています。私もこれに倣い、「柿次郎」や「柿安 口福堂」といった和菓子のチェーン店を立ち上げました。
桜井 なぜ、和菓子だったのですか? 同じ食でも牛肉からは遠い印象がありますけれど。
赤塚 単純明快で、和菓子は私自身の大好物だからです。もちろん、高齢化とグローバル化が進むこれから、日本的で上品な甘みのある和菓子の人気はますます高まるのではないかという見通しもありました。でも、桜井社長が疑問を持たれたように、「新しいことに挑め!」と私にけしかけていた先代社長にも、「なんで和菓子なのか?」と首を傾げられ(笑)、最初は反対されました。でも今や、売上の20%近くを稼ぎ出すまでに成長しています。
桜井 それはすごい。お客さまの志向を追求することが、すなわち革新につながるのかもしれませんね。私たちも、「美味しい日本酒を造る」ために、杜氏制度をやめて社員で酒造りにあたるなど変革してきている部分はたくさんあります。
革新と言えば、料亭「分とく山」総料理長の野崎洋光さんから面白い話を聞きました。私が、山口の小さな酒蔵が全国区に打って出られたのは、宅配便の登場によって全国各地の小売店に小量からでもお酒を送ることが可能になったからこそ−−−−という話をしたら、宅配便の普及によって料理の世界にも大きな変化が起きたとおっしゃるんです。
赤塚 ほう、どういった変化ですか?
桜井 従来からの定番料理だけをよしとしなくなってきたというのです。たとえば、濃い味が好まれてきた地域でも薄味に対する評価が高まるなど、宅配便を通じて全国の様々な食を堪能できるようになったことで、日本人の味覚が変わってきた、と。たしかに山口県にいながら、北の海で捕れた甘エビを肴に獺祭を飲んだりできるようになったのも、宅配便をはじめとする流通革命のお陰ですからね。純米大吟醸や純米吟醸がもてはやされるようになったのも、ちょうどその頃だそうです。
赤塚 なるほど、おっしゃる通りですね。今日の特別メニューにも、日本各地から取り寄せた素材をふんだんに使っています。たとえば、鍋物に欠かせない九条ネギは京都淀産、玉ねぎは兵庫淡路産で、どちらも名人と呼ばれる農家に育てていただいたものです。また、宮崎霧島産の天孫隆卵も、先代の時代から卵が切れたら店を閉めろと言われる程こだわってきた素材です。
桜井 そんな厳選素材を使ったお料理と獺祭とのマリアージュとなると、お客さまの反応が楽しみですね。
「三重 柿安牛×獺祭」のマリアージュという豪華な特別メニュー拡大画像表示
赤塚 白子とうふの始肴に獺祭の「磨き三割九分スパークリング」、石垣鮟肝をはじめとする旬彩に「純米大吟醸磨き二割三分」、寒ぶりなどを獺祭の酒粕醤油で召し上がっていただく向附には「磨き その先へ」、そしてメインのすき焼には「純米大吟醸磨き三割九分」を合わせています(メニュー参照)。
桜井 メニューを拝見してみると、最後のデザートも獺祭の酒粕を用いて作っていただいているんですね。赤塚社長の食への並々ならぬこだわりをうかがってきて、柿安本店が長く受け継がれてきた「伝統と革新」という経営哲学には、私たちがお酒を造る姿勢とも大いに共通する部分があるので非常に共感しました。つねに「お客さま第一」を貫くということですよね。