歴史的な大改革を断行しても
GDPと出生率の目標はこれだけ厳しい

 では、同予測の「改革シナリオ」であれば、一億総活躍社会の実現は近づくであろうか。改革シナリオは、前述の標準シナリオでは日本経済が失速し、破綻する事態を回避するため、必要となる2%成長を達成するためにはどんな施策が必要か、またそうした施策を打てば、いつ頃2%成長を実現できるかについて、シミュレーションしている。

 結論を先に言えば、26~30年度の名目成長率を2.2%、実質成長率で2.0%を達成するには、明治維新と戦後に続く「第3の開国」と言えるほどの大改革が必要で、考え得る改革施策を総動員しても、GDPが600兆円に達するのは24年度頃、出生率は30年度でやっと1.6にとどまるという。一億総活躍社会の目標がいかに現実離れしているか、その実現への道程の厳しさを物語っている。

 アベノミクスの新・3本の矢は、2020年に「GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロ」を目指すが、GDP600兆円の実現には年率3%成長の持続が必要であり、出生率1.8の達成には子育て支援策に年額8兆円規模の財源が必要となる。介護離職ゼロを目指すには、就業者500万人の増員が必要で、総就業者のうち4、5人に1人の割合で従事しないと実現しない。これも子育て支援強化策と同様、結局は恒久財源の確保が実現、達成の鍵となる。ちなみにこの改革シナリオでは、目標の2%成長を実現、達成するにあたって、次のような施策を前提にしている。

 1つには、財源確保と財政再建を両立させるため、消費税率を30年までに徐々に引き上げて、23%にする。2つには、労働生産性の伸びを現在の約0.7%から3倍以上の2%台へ引き上げる。3つには、市場の開放度を高めて、外資や異業種からの参入を促進し、競争やイノベーション(革新)を促す。30年度までに開放度を今の英国並みにすると、30年度の対内直接投資残高は現在の6倍、120兆円になる。

 英国は今、外資が産業を先導しているが、日本経済の再生にも外資や異業種からの参入が必要である。EU域内の英国のように、日本も米国やアジア諸国との間で関税はゼロで、企業買収や就労なども自由にできる環境を整えるべきで、「第3の開国」が不可欠であるとしている。

 これだけの施策を見渡しても、新・3本の矢の3つの目標はいずれも日本経済の実態からはあまりにも大胆で、飛躍しており、実現の可能性はいずれも不可能に近い。ましてや、3%成長を持続させながら、出生率1.8や介護離職ゼロを目指すことがいかに至難の業であるか、想像に難くない。

 それでも、一億総活躍社会の最大の目玉である子育てや介護の支援強化策を実行に移していくことは、喫緊かつ中長期にわたる不可避の政策課題である。短期的には人口減少社会の下で、激減していく就業者人口を確保するため、子育てや介護と仕事を両立させ得る社会環境の整備とともに、中長期的には男女を問わず、働き盛りの人たちが子育てや介護のために仕事を辞めなくても済む福祉社会の実現へ向けて、最優先すべき必須の福祉政策である。