差別化をしやすい
商材を選ぶ

 外食チェーンが強みを発揮するには、「食事価値」を上げると同時に、「食品価値」についても競争力を高めていかねばなりません。「食品価値」における外食チェーンの強みの1つとして、その場で料理を作って売る、つまり顧客に提供する食品が“できたて”だという点があります。

 その際に大事なのは、商材をしっかりと見極めることです。例えば、コーヒーやパン、ドーナツといった商材は、冷凍技術やマシーンなどの進化によって作り置きが品質に与える影響が少なくなりました。私が社長に就任したとき、吉野家はダンキンドーナツ事業を展開していました。私は事業部長を務めた経験があって、ダンキンドーナツへの思い入れがあったし、当時なんとか黒字化して利益も出ていました。しかし、最終的には撤退を選びました。長期的に見ると、店舗を構えて事業を展開し続ける優位条件が乏しく、スーパーやコンビニの食品との差別化が難しいと考えたからです。

 機械で十分ハイクオリティーのものを作れる商材は、近い将来コンビニに市場を侵食される恐れがある。だからこそ、外食チェーンの強みを発揮できる商材をしっかりと選ばなくてはならない――。実はこれは、私が自らの体験から得た教訓でもあります。

 私は社長時代、吉野家の傘下で弁当・惣菜店の事業を始めました。吉野家で培った素材調達やキッチンオペレーション、コンパクトな店舗を少人数で回すといったノウハウを生かして、一気に多店舗展開して軌道に乗せようと、大きな夢を描いて始めた事業でした。コンビニのような作り置きではなく、注文を受けてから作るという仕組みで、当社の強みを生かせると思っていました。

 しかし、結局この事業はコンビニとの真っ向勝負でした。実際にやってみると季節メニューとして、しょっちゅう新商品を差し換える必要があった。ロスが膨大に出るため粗利が低く、継続的に利益を出すのが難しかったのです。

 コンビニは飲料・食品が商材の中心ですが、日用品といった他の商材も豊富にあり、それらを組み合わせて損益分岐点を低くし、全体で利益を出せる仕組みを持っているから強いのだとあらためて気づきました。結局、弁当・惣菜事業からは、私が社長を退任するときに完全に撤退しました。当社が「食事価値」の創造に至ったのは、その反省もあるのです。