――LGBTの問題は会社から言われて始めたことだったと。では、どの時点で、「これは熱を入れて取り組むべき問題である」と思い至ったのですか。

 やはり、社内のLGBT当事者たちと一緒に新宿2丁目に行って飲み会で盛り上がったり、これまで誰にも言えなかったような身の上話を聞いたりしているうちに、自分とまったく同じ人間であることに気付いたということです。当事者の立場になってみると、「上司から何度も『なぜ、結婚しないのか?』と言われ続けてうんざりする話」や、「独身であることによる遺産相続をめぐる悩み」、さらに「同性カップルであるがゆえに、同棲相手の恋人が交通事故で亡くなったような場合でも、家族としては扱われないので会わせてもらえない」という現実など、それまで知らなかったことばかりで衝撃を受けました。

 よく言われていることですが、LGBT当事者はファッション・デザインの世界で活躍するような繊細な感覚の持ち主が多く、相対的にスペックが高いと感じる人が少なくないのです。私は、最初は会社に言われて始めたことだったのですが、当事者と付き合い始めて4年ぐらい経った頃に、「もっと熱を入れて取り組むべきだ。埋もれているLGBT当事者が、もっと世の中で能力を発揮できるようにサポートしよう。結果は後から付いてくる」と思い至ったのです。

毎年4月の最終週に、東京の代々木公園内で開催される「東京レインボープライド」(日本最大のLGBT関連イベント)では、日本IBMは単独でブースを出している。社内のLGBT当事者が中心に企画したもので、2015年は「2020年 理想の職場」(あなたの理想の職場を教えて下さい!)と広く意見を募った 写真提供:日本IBM

 幸い米国のIBMには、1911年の設立時より、今日言われているようなダイバーシティを尊ぶ文化がありました。また日本のIBMにおいても、98年には、「ジャパン・ウイメンズ・カウンシル」(女性社員の活躍を推進する社長直属の諮問委員会)を立ち上げ、99年からは「障害者雇用」の問題に取り組み始めるなど、国内の生産設備を縮小する中でも、さまざまなチャレンジを続けてきました。すでにそうした流れがあり、将来的にさらなるグローバル化と向き合うことになる日本の産業界においては、「日本IBMがいち早くLGBTの問題に真剣に取り組むことは、会社としての売りになる」という判断もありました。

 LGBT関連施策は、女性活躍の推進や障害者雇用などと異なり、なかなか目に見える数字上の達成感が得にくい悩みがあります。しかし、10人の当事者の先には、カミングアウトできない100人の当事者がいるに違いないと考え、途切れることなく社内外での啓蒙活動を続けてきました。国際NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチや、認定NPO法人のグッド・エイジング・エールズなどと組んだ啓発イベント「work with Pride」は、15年で4回目を迎えました。

ビジネス上の必要性から
LGBT施策を推進する

――ところで、下野さんは、LGBT当事者ではありません。にもかかわらず、社内のコミュニティの信頼を得て、今では企業や大学などで講演もしています。質疑応答などでは、「なぜ、当事者でもないのに、そこまで熱心に寄り添うのですか」と不思議に思われることはありませんか。