企業がダイバーシティ(多様性)に取り組むことは、イノベーションを生み出す必要条件である。はっきりそう述べるのは、米IBMでLGBTマーケットの開拓を担うアンソニー・テニセラ氏。同性愛者であることを明かした同社のエグゼクティブの1人で、官公庁や企業相手の伝統的な市場とLGBTなどの新しい市場で事業機会の創出に取り組んできた。なぜ、IBMグループはダイバーシティを重視しているのか。どうして、LGBT当事者の数を増やす必要があるのか。米国企業の中でも先行しているIBMの事例と、根底にある考え方を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部・池冨仁)

ダイバーシティなしでは
イノベーションは生まれない

Anthony Tenicela
1964年、米ペンシルベニア州生まれ。ピッツバーグ大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校でパーソナリティ・組織心理学の修士号、UCLAアンダーソン・スクールでビジネス戦略の経営学修士号を取得。オンライン旅行サービスのプロトタイプ開発などに従事した後、96年にIBMに転じる。ダイバーシティ&LGBTマーケット担当グローバル・リーダー兼ビジネス開発担当エグゼクティブとして、世界中の顧客に対し、ビジネス戦略としてのダーバーシティの考え方、そのための人材育成、コニュニティのあり方などをアドバイスする役割を担う。サンフランシスコとニューヨークに在住。
Photo by Shinichi Yokoyama

――日本の企業でも、ようやく「ダイバーシティ」という言葉が一般的になり、その一部であるLGBTと職場の問題についても注目が集まってきた。米IBMにとって、ダイバーシティという概念はどのように重要な意味を持っているのか。

 1911年設立のIBMは、この分野ではずっとグローバル・リーダーの役割を務めてきた。過去100年以上、職場のダイバーシティに全員参加の精神で取り組んできた。そのことは、遺産であり、企業文化として定着している。

 そして現在、ダイバーシティという概念は、企業がグローバルにビジネスを展開していく上で、必須の事項となった。いまや、多様性は、企業の競争力や差別化の源泉であり、それなくしてイノベーションは生まれなくなっている。多様性自体がイノベーションを生むと言ってもよい。そんななかで、LGBTを含むダイバーシティの概念は、企業がマイノリティ・グループと“関係性”を構築し、育んでいくためにも、鍵を握る重要な概念となっているからだ。

 IBMの顧客は多様化しているし、ニーズもまた多様化している。そのような流れの中で、私は職場と市場の“橋渡し”をしようと取り組んでいる。