リーダーにとって
唯一の仕事道具は「言葉」

ビジョンをチームの隅々にまで浸透させる方法を事例とともにいくつか紹介してきましたが、突き詰めて言えば、やはりビジョン伝達力の本質とは「言葉の力」です。

リーダーの唯一かつ最強の仕事道具は「言葉」なのです。

そこで、この章の最後に、1つだけ注意をお伝えしておきたいと思います。それは、「リーダー自身の言葉が持つ力」に自覚を持つことです。リーダーは、誰よりも言葉に敏感でなければなりません

組織内のポジションが上がるほど、リーダーがうっかり発した言葉で、人や組織が思わぬ方向に動いてしまうようになります。私自身も若いころは、はっきりとした物言いをしない上司に不満を抱いた時期がありました。

しかし、私もいざリーダーのポジションになってみると、自分の発言が部下や組織にどれほどの影響力を持っているのかを実感することになりました。

そうした葛藤のなかにありながらも、メンバーたちに納得してもらえるような言葉選びや言葉遣いをしなければならないのがリーダーなのです。

リーダーの発した言葉で、チーム内に不協和が生じたり、プロジェクトが滞ったりするということは、リーダー自身がまだまだチーム全体を高解像度で見られていない証拠です。

たとえば、「最近の営業1課はだめだね」と何気なくリーダーが言うだけでも、チーム全体のなかには「じゃあ、営業1課と組むのはやめよう……」といったムードが広がります。その結果、営業1課の成績がさらに悪化するという事態につながるかもしれません。

また、メンバーのあいだに「ウチのリーダーは裏表のある人だ」というイメージが広がっていれば、つねにリーダーの言葉の「裏」を読もうとするようになりますから、伝えたいことの真意が伝わりづらくなっていくでしょう。

つねに誠実かつ正しい言葉を使うことは、リーダーが心がけるべき最重要事項です。また、広く共感を呼ぶようなビジョンを言語化するには、研ぎ澄まされた言葉の力が必要です。

言葉こそがリーダーの力の源泉であり、言葉の修練はリーダーに不可欠なのです。

(第17回へつづく・3月4日公開予定)