認知症や要介護は、加齢や運だけで決まるわけではない。老年医療の現場に立ったガブリエル・ライオン医師は、肥満と認知症という一見無関係な2つの病気が、私たちが見落としがちな「あるもの」でつながっていることに気づき愕然とした。晩年に明晰な頭と歩き続ける自由を保てるかどうかの分かれ目は、実は驚くほど身近なところに潜んでいる。『筋肉が全て━━健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法』をもとに、ヒントを紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局・三浦岳)
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健康な筋肉組織が不足していた
私たちは年齢を重ねるにつれて、認知症や要介護といった「老後の不安」を漠然と抱くようになる。多くの人は、それを加齢による避けられない運命だとあきらめている。
しかし、尊厳ある晩年を送れるかどうかは、運や年齢だけで決まるわけではない。これまでの人生で、意識的に体を動かす習慣を持ってきたかどうかが大きく影響する。
『筋肉が全て』の著者であるガブリエル・ライオン医師は、老年医学の専門研修中に高齢者医療の現場に立った経験から、一見無関係に見える肥満と認知症が、実は同じ原因――筋肉の量と質の低下――に行き着くことに気づき、愕然としたという。
ライオンは、ある50代の女性患者の症例を挙げ、次のように振り返る。
アルツハイマー病患者の脳にそっくりだったからだ。
10~20年後の彼女の姿が目に浮かんで愕然とした。
彼女だけでなく、私たち医学界はほかの患者にも同じことをしていた。
患者たちに共通していたのは、筋肉量が少ないか、筋肉に何らかの問題があるということだった。
全員、何らかの基本的な動作(腕立て伏せ、スクワット、ランなど)を行うのに必要な筋力が不足しており、血液マーカーが筋肉に問題があることを示していた。
問題は体脂肪ではなく健康な筋肉組織の不足だったのだ。――『筋肉が全て』より
筋肉が減少すると代謝が乱れる
筋肉は、単に身体を動かすための物理的なパーツではない。
全身の糖や脂質の代謝を調節し、脳細胞の成長や修復を促すさまざまなシグナル物質(マイオカイン)を分泌する、極めて重要な「内分泌器官」としての役割を担っている。運動を怠り筋肉を衰えさせることは、脳への血流や栄養供給を自ら阻害し、認知機能を徐々に低下させていくことに等しいのだ。
さらに恐ろしいのは、この肉体の崩壊プロセスが、老衰を実感するはるか手前の段階から、目に見えない速さで進行している点だ。
若いうちから運動不足と不適切なタンパク質摂取がもたらす問題に対処しなければ、その後の長い人生で脂肪増加と筋肉減少に悩まされることになる。――同書より
運動をしてこなかった人が辿る老後は過酷だ。
筋肉が減少して空いたスペースに脂肪が蓄積し、身体全体の代謝バランスが完全に破綻する。やがて軽い転倒をきっかけに寝たきりとなり、急激な認知機能や感情的健康の低下を招くという、予測可能な衰退のスパイラルへと滑り落ちていく。
明晰な頭脳と、自らの足で歩き続ける自由。その晩年のQOL(生活の質)を担保するのは、若い頃からの「運動」という日々の小さな自律の積み重ねである。未来の自分をどのような存在に仕立て上げるか、その主導権は現在の私たちの選択に委ねられている。
医師(DO)
イリノイ大学で栄養科学の学部課程を修了後、セントルイス・ワシントン大学において老年医学・栄養科学の臨床・研究フェローシップを修了。健康、パフォーマンス、老化、疾病予防におけるタンパク質の種類および摂取量の実践的応用に関する分野の専門家、教育者として活躍している。筋肉についての最新研究を網羅した本書は全米で大きな話題を呼び、ニューヨーク・タイムズベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、世界各国での刊行が続いている。







