ルールに固執する管理部門の蔓延は
経営者の怠慢に原因がある

 人事部のみならず、IT部門や総務部門も含めて、このようなトンデモな事態が出現しているのは、これら管理部門が、1980年代に進んだ管理・効率追求型の体制から、未だに変革できていないからではないだろうか。

 90年代、管理部門には制度導入型のイニシアチブが普及したが、多くの企業で、管理・効率追求型から脱却できなかった。さらに2000年代入ると、管理部門がビジネス部門(営業やマーケティングなど)のビジネスパートナーとして位置づけられ、ビジネス部門へサービス提供するべき、という変化が世界中で起きた。しかし相も変わらず、多くの日本企業の管理部門は、いまだに80年代の管理・効率追求型から抜け出せず、ビジネス部門へのサービス提供というマインドにはまったく到達できていない。

 何も変わっていないどころか、逆行していると言わざるを得ない場面にも出くわす。読者のみなさんは、前出のS社の事例で、IT部門や総務部門を管轄する管理部門の部門長は何をしていたのかと、思われたに違いない。

 S社の事例では、部下の裁量を重んじるがあまり(内心はITの専門的なことがわからないという思いもあったようだが)、IT部門と総務部門双方の言い分をじっくり時間をかけて聞き、現場で結論の方向性が出てくるまでは、決断しないというスタンスに終始していたのだ。スペシャリストの言いなりになるマネジャーの姿に、ボトムアップの悪しき弊害が垣間見える。

 入社手続きや退社手続きで社員をたらい回しにする企業の担当部門長に話を聞くと、「担当部門に任せていますので」「事務的なことは、わかりませんので」という答えに接することが多い。問題がなければ任せていれば良いし、事務が進捗しているのであれば、分からなくとも事足りる。

 しかし、ひとたび問題が起きたら、その問題にかかわる細部は、少なくとも判断できる程度には確認してアクションすることが、マネジャーの果たすべき役割であろう。それがおろそかになっているのである。

 さらに酷いのは、ユーザー社員の側に立って、言わば「三遊間のボールを拾いまくる」役割を担った担当者が冷遇される事態があることだ。IT機器なのか備品なのかの定義が定かではない新しい物品の購入はもちろん、備品のオンライン注文、航空券などのオンライン発注、入管手続きの変更など、技術の進歩と環境の変化によりビジネス環境は、月を追うごとに変わっている。

「ユーザーである社員がこうしたテクノロジーの変化による恩恵を享受し、スムーズに業務を遂行できるようにサポートする」――。そんな考え方を持ち、管理部門内の既存ルールにこだわって対応を遅滞させてはならぬと、積極的に仕事を担ってきた総務担当者が、「越権だ」「社内ルールを逸脱している」「私欲で取り組んでいるのではないか」と集中砲火を浴びるという事例がある。集中砲火を浴びせた中には、なんと管理部門の部門長もいた。これを見た他の管理部門メンバーは、「自分は決して余計なことはすまい」と思ったに違いない。

 管理部門長に、全体を俯瞰して、部門横断でとりまとめたり、新しい取り組みをすることになった部門のリソースの追加や調整をする能力が欠けていれば、その部門長の能力を高めるか、能力を有した人材に入れ替えるかしなければならない。結局のところ、それを経営者が怠ってきたことが、ビジネス部門へサービス提供できる管理部門を作ってこれなかった原因だと思うのは、私だけだろうか。


※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。