伊藤忠商事の岡藤正広社長が1月、慣例となっていた6年間の任期を超えての社長続投を宣言した。その決断の背景に何があったのか。そして今期、純利益で初の業界首位に立つ見通しの岡藤伊藤忠は何を目指すのか。異能の社長の胸中に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)
──昨年秋ごろまでは岡藤社長も6年目の今期限りで勇退される意向が強かったように思う。いつ、どういう理由で続投を決断されたのでしょうか。
僕自身、この6年間に仕事も、個人の生活も合わせてきた。懸案だったブラジルの鉄鉱石事業も処理できるめどが立ち、今期が良い引き際と思っていた。
しかし任期満了が近づくと、社員が動揺するわけです。皆、足が地に着かない。他社の話を聞くと、社長交代があると新社長が全体を把握するための会議や書類が増える。その間にビジネスが停滞する。商社にとっては今、資源価格が急落し、カントリーリスクも高まっている、まさに激動の時代。困ったな、というのがあった。
株主や提携先、メーンバンクの頭取からの(辞めるべきでないという)声も大きくなった。耳をふさぐこともできたんでしょうけど、辞めて業績が急降下すれば何もならんし、次の社長も気の毒。
そういうときに思い出したのが、(昨年11月の)ワールド・ベースボール・クラシック。準決勝で日本の大谷翔平投手が7回に交代した後、韓国に逆転負けした。後の投手に能力があっても、波に乗れないこともある。6年が慣例だから辞めますというのは、あの野球と一緒。定石通りに7回で交代したら、大変なことになった。
商社の人間は攻めに強いが守りに弱い。いくら勢いがあっても、社員の気持ちが少し下がると、一気に落ちてしまう。年末から正月にゆっくり考え、もうちょっとやらざるを得ないと思ったんです。
──1人で判断した。
基本的にはそう。でも12月末、主な役員を一人ずつ呼んで意見を聞いた。彼らの反応を見れば自分の考えを確認できる。
それから(資本提携を結ぶ)CITIC(中国中信集団)、CP(タイ財閥チャロン・ポカパン)のトップから、抗議というか、慰留の言葉があった。3社提携が実際にスタートするのは今年4月1日から。彼らは「形だけめどを付けてサイナラはあかん。3人でやっとんやないか」と。それは当然そうですね。無責任かなと。
銀行からは「あれだけ大きな金(CITICへの投資額6000億円)を使っているのだから、ある程度軌道に乗せないと大変なことになる」と。それもそう。もし失敗したら、自分としては美学で辞めても美学にならない。
でも辞める方向でクールダウンしていたので、気持ちを盛り上げるのが大変やった。そこで始めたのがライザップ。この6年間で血糖値とか体がだいぶ悪くなった。ライザップを始めて半月後に血液検査したら良い数字が出た。これはええなと盛り上がった(笑)。