英語習得をめざしてTOEICに取り組んでいるビジネスマンは多いですが、ハイスコアを取ってもそのままでは「話せる」ようにはなりません。でも、テストは実戦で生かしてこそですよね。
 TOEIC指導で圧倒的な信頼があり、新刊『6万人のビジネスマンを教えてわかった 時間がない人ほど上達する英語勉強法』の著者でもある中村澄子さんと、英語教育改革に情熱を注ぐ安河内哲也さんが、「どうしたら話せるようになるか」を対談で熱く語りました。(構成:渡辺一朗)

メジャーリーガーも実践⁉
○○されたらラッキーと思え!

中村澄子(以下、中村)前回のお話は、TOEIC(LR)はとても優れたテストではあるけれど、2技能(聞く・読む)なので、それだけでは「話す」ようにはならない。
 多くの人が「英語を話せるようになりたい」と思っているのは事実で、そのためには何をしたらいいの? という質問で終わりました。

安河内哲也(以下、安河内) まずは「マインドセット」ですね。ポイントは3つあります。
 1つめは、Enjoy making mistakes!「間違うことを楽しみましょう」ということです。
 日本人は間違えることを気にしすぎです。どの国の人も話してるときは間違えますよ。なぜ非ネイティブの日本人が、英語で間違えることをそこまで気にしなきゃいけないのか。

 もちろん金額とか契約の条項とか、そういうのは間違えちゃいけません。
 でも、話している時の文法がちょっと間違うくらいは問題ない。相手もこちらがノンネイティブだとわかっているんですから。

中村 ええ。日本人は真面目なので、正確に答えよう/気の利いたことを言おうと、一瞬考えてしまうんです。
 でも、その間が相手にストレスを与えるし、テレコン(電話会議)などではその瞬間に、他の参加者に発言の機会を奪われて、結局何も言えずに終わってしまうということも少なくない。
 「間違えて笑われてしまったらどうしよう」という心配もあるのかもしれません。

安河内 笑われたらどうしよう?素晴らしいじゃないですか!
 アメリカ人は人を笑わせるために、「ジョークの本」まで買って練習してるんですよ。
間違えるだけで笑ってもらえるなら、それはむしろ喜ばないと。

 それに、下手でも一生懸命しゃべっていたら、「あいつは面白いやつだ」って好かれますよ。
メジャーリーグで会話帳を手にインタビューに答える川﨑宗則選手(今季からシカゴ・カブス)が、ファンや同僚からどれだけ愛されているか、皆さんご存知でしょう。

中村 国内だと、なかなか練習の機会がないという人もいます。
 本当に忙しい人だと、英会話学校に通う時間を作るのも難しい。
 最近は、スカイプでレッスンを受けるオンライン英会話という手もありますが、「瞬間発話」(頭の中で即座に英作文し発話する)の訓練にはなるものの、ビジネス会話となるとまたちょっと違っていて、悩ましいところです。

安河内 オンライン英会話も初級者にはいいですよ。会話のレベルはぼちぼちですが、値段が手頃だし、時間が選べるし、何より英語で話すことを楽しめる。
 先生はフィリピン人が多いけれど、彼らも第二言語として英語を学んでいるぶん、学習者の苦労をわかってくれる。確かにビジネス英語とは少し違いますけれど。

中村 ビジネス英語を体系的に学べる本や、教えてくれるスクールってなかなかないんです。
 この『6万人のビジネスマンを教えてわかった 時間がない人ほど上達する英語勉強法』では、実際に現場の一線級で活躍しているビジネスマンたちが、どうやってその課題を克服しているか、たっぷり実例を載せてあります。

 それで先生、話せるようになるポイントの2つめは?

安河内「発音コンプレックスを持たない」ことです。
 常に、発音の矯正をすることは大事です。でもこだわりすぎると口から英語が出なくなる。
 まずは、今のあなたの英語で話し始めることが大事。
 最初はジャパニーズ・イングリッシュだってかまいません。

 私は今、アメリカの会社とも取引をしていて、いつもアメリカで会議をやっていますが、ネイティブだけしか居ないグローバル企業なんてありません。イラク人がいて、エリトリア人がいて、ドミニカ人がいて、アメリカ人もいる。
 そういったところで“通用する英語”ってどんなのかというと「流暢なアメリカ英語」ではないんですね。「みんながわかる英語」です。

中村 実はきれいな発音で話せること自体は、ビジネスの現場でもそれほど評価はされません。
 ビジネスでは話の内容(相手の欲しい情報を持っているか)がいちばん重要で、次に簡潔かつ誤解のない伝え方、それと日常会話とは違う「インテリっぽい語彙のチョイス」「ちょっとフォーマルな言い回し」ができると一目置かれますね。
 では、ポイントの3つめはなんですか?

安河内 3つめは「大きな声で話すこと」です。
 これも「間違えたらどうしよう」「発音に自信がない」ことを気にするからでしょうが、まっすぐ前を向いて大きな声で堂々と話して欲しい。
 セールスをするときに営業マンが自信なさげでは売れないでしょう。
 交渉をするときに自信なさげではいいディールはできないでしょう。
 日本語ならあたりまえにやってることなんだから、英語でもそうしなきゃ。

中村 たしかに。仕事のデキる人が「英語ができないから」という理由で活躍できないのは悔しいし、もったいないと私は思うんです。
 ビジネスマンの人は今の自分に英語のスキルが加わったら、どれだけ活躍の場が増えるか、可能性が広がるか考えてみて欲しい。
 英語はやればできるようになるし、忙しく時間がないなかでも取り組んで、頑張っている人はたくさんいます。

安河内 皆さん、英語を学生時代にあんなに勉強したわけだし、社会人になってからはTOEIC(LR)に挑戦してすばらしいと思います。
 それで、テストでは高得点を取れるようになったけど、話すことはできませんなんてもったいないじゃないですか。

 私もTOEIC(LRSW)も含めて、テストは大好きだけど、満点を取るよりも、英語を使って友達ができ、飲み会で盛り上がれるほうがよっぽど嬉しい。
 ビジネスで海外へ行ってプレゼンをして、その後のパーティーで、いろんな人と議論をしたり、雑談したりすることが一番楽しい。
 机にかじりついて勉強するばっかりじゃ、この楽しさは味わえません。 TOEICも「スピーキングテスト」なら、会話に直結した訓練になります。

中村 TOEIC(LR)でいいところまで取れた人は、そこにいたる基礎はもうできているんですね。
 なので、そこで終わらないでぜひ次のステップへ進んで欲しい。

では先生、そういう「マインドセット」を変えた後に、例えばいまから始めるとしたら、まず何から手をつけましょう?

安河内短い文をたくさん暗記して使うことでしょう。
 最初にサクッと基礎文法はやり直したほうがいいかもしれません。文法がわかっていないと言葉をどう並べていいかわかりませんから。
 ただし、それもやりすぎないこと。
 じゃあどこまでやればいいかというと、中学英語の英文法と高校の初級文法までです。中学英語だけだと「仮定法」や「原形不定詞」が入らないから、やや不足します。
 それ以上の、例えば「倒置法」なんかは、それは「そういう珍しい表現として」、英語が話せるようになってから、ヒマだったらやればいい。
 英文法はキリがないから、あまり追求しすぎないことですね。

中村 私も自分のTOEIC教室で、正規の授業とは別に予備校の先生を招いて、基本五文型からやり直す「文法教室」を開いているんですが、毎回大変な人気です。皆、一度はやったことなんですが、十年以上も経つとすっかり忘れていますし、でもそこは絶対に欠かせない大切なところですから。
 高校初級までやると、表現の使い回しがききますね。

安河内 そうです。
 それで例えば、Let me help you carry your bag.(あなたがバッグを運ぶのをお手伝いさせてください)という表現を覚えたら、次は、Let me help you ~を使って、Let me help you complete the document.(原稿を完成させるのを手伝わせてください)とか、Let me help if you are busy.(忙しければお手伝いさせてください)など、いろんな文を作って口に出して言ってみる。

 口に出して言うことが大事なんですよ。
口を動かさないでスピーキングができるようになることは100%ありません。
 相手がいなくても、自分で場面を想定して言ってみたり、早口で言ったりゆっくり言ったり、いろいろできることはあるはずです。これを繰り返すことで、脳に自動化された回路が出来上がる。
 すると次からは必要な場面で、このフレーズが考えなくても口を突いて出るようになるんです。

「そこそこレベル」になるためには
どのくらいの時間がかかる?

中村 それができるようになるまでには、やはり時間がかかるでしょう。
 けれどもその過程を経ずして話せるようにはならないし、限られた時間に何をやるかは重要です。

 安河内先生の感覚では、まったく話せない人がそこそこ仕事で使えるレベルになるまでに、どれくらいの時間を要すると思いますか?

安河内 う~ん、マインドセットを変えさえすれば、片言の英語がすぐにしゃべれるようになる人も多いと思います。
 しかし、それなりにきちんとした英語なら、ものすごい虎の穴みたいなところで訓練して、半年~1年くらい。
 仕事をしながら1日30分間を習慣にして、日常会話がかなりのレベルでできるようになるまでに2年程度。
 海外の展示会などでお客さんに商品説明をしたり、価格交渉ができるようなるのに3年くらいじゃないでしょうか。

 でも、3年って、実際にはそんなに長くないですよ。
 それにビジネス英語というのは、専門用語や同じ言い回しが何回も出てくるから、あるところからよくわかるようになるはずです。

中村 そう考えると、やっぱりTOEIC(LR)は「通過点」なんですよね。
 日本では企業の国際化が言われてもう何年も経ちますが、本当の意味で誰に対しても英語のスキルが当たり前に求められるようになったのは、日本企業が外国企業をM&Aをしたり、されたりが本格化したここ数年からだと思いますし、その流れがいよいよ本格化するのはこれからだと思います。

 今はまだ、TOEIC(LR)の点数しか求められていなくても、これからはその先が求められるようになる。
 なので、ビジネスパーソンの皆さんには早く、「話せるようになる」ことも意識して欲しいと思います。

安河内 私もいろいろなところでスピーキングを教えていますが、「日本人は話すことが苦手」という状況は、これからどんどん変わっていくと思います。
 「日本人は文化的にシャイだから話さない」というのは、単なる都市伝説で、私が教えている中学生、高校生、大学生、社会人は、スピーキングが大好きで、本当によくしゃべります。
マインドセットを変えればよいんです。
 居酒屋などに行ってみるとおわかりになるとおり、シャイどころか、とにかくみんなよくしゃべるんです。
 しかも、英語で。楽しみですね!

安河内哲也(やすこうち・てつや)
1967年日本の福岡県北九州市生まれ、遠賀郡岡垣町育ち。東進ハイスクール・東進ビジネスクールのネットワーク、各種教育関連機関での講演活動を通じて実用英語教育の普及活動をしている。特に各種4技能試験の普及活動にも熱心に取り組んでいる。文部科学省の審議会において委員を務め、大学入試への4技能試験導入に向けて積極的に活動中。TOEICスコアは1390点満点(LR+SW)。帰国子女でもなく、長期留学経験もないが、独自の音読自動化学習法で英語を習得した。2014年には、国際コミュニケーションの頂上決戦 ICEEで優勝。安河内式トレーニングに基づいて英語を習得した教え子たちは、難関大学に多数合格するだけでなく、英語教育や国際交流、ビジネスの場で多く活躍している。執筆活動に関しては、現在は英文ノベルのみに集中。参考書や一般書の執筆は休止している。英文ノベル以外にも、これまで、ベストセラービジネス書(『勉強の手帳』(あさ出版)、『できる人の教え方』(中経出版)等)、及び参考書を多数執筆した。発行部数は350万部を超える。これらは、韓国・中国・台湾・タイでも、多数翻訳され出版された。趣味は、自転車、マジック、映画、音楽、クイズ。韓国語も大好き。話せる英語、使える英語を教えることを重視している。子どもから大人まで、誰にでもわかるよう難しい用語を使わずに、英語を楽しく教えることで定評がある。
中村澄子(なかむら・すみこ)
同志社大学卒業。イェール大学でMBA(経営学修士)を取得。帰国後、米国の金融コンサルティング会社の日本法人立ち上げに参画。その後、オフィスS&Yを設立。大企業で英語研修講師を務める傍ら、東京・八重洲でキャンセル待ちが列をなすTOEIC専門スクールを運営。購読者3万人を超える人気メルマガ「時間のないあなたに!即効TOEIC250点UP」の発行者でもある。累計80万部の『1日1分レッスン!新TOEIC TEST千本ノック!』シリーズ(祥伝社)の他、『TOEICテスト英単語 出るのはこれ!』(講談社)など著書多数。
https://www.sumire-juku.co.jp/