毎日、仕事に追われるなかで、英語を身に付けなければならない忙しいビジネスパーソンのための英語勉強法とは? 連載第1回目の今日は、筆者・中村澄子さんの体験を紹介。本気で勉強を始める覚悟がわいてきます。
なぜ、忙しい人ほど成果が上がるのか?
私は、10年以上前から東京・八重洲で教室を開き、ビジネスパーソンの指導にあたっています。
受講生たちの話を聞いていると、数年前とは比べ物にならないほど、企業が社員の英語力向上を求めているのがわかります。
とはいえ、ビジネスパーソンには日常的にこなさなければならない仕事がありますし、英語以外にも身に付けなければいけないスキルや資格もあるはずです。
そう考えると、みなさんが置かれた状況は過酷です。
しかし、多くのビジネスパーソンを指導する中で私が確信しているのは、忙しく時間がない人ほど、英語の上達が速いということです。
毎晩ほとんど終電で帰宅する専門職の人たち、早朝深夜も電話一本で駆けつけなければならない営業マン、赤ちゃんから目が離せず明け方にしか時間の取れないお母さんなど、いろいろな人が、時間をやりくりして頑張っています。
そのような人たちが2~3ヵ月で成果を上げた例をいくつも見てきました。
忙しくて時間のない人ほど成果が上がる理由はどこにあるのでしょうか。
私は、「時間がない! でもやらなくてはいけない!」という危機感が、集中力を高め、学習を密度の濃いものにしているからだと思います。
短期間で結果を出す受講生には「仕事もできるんだろうな」と思われる人が目立ちます。多忙な仕事で培われた集中力と段取り力が、英語力のアップにもよい効果を及ぼしているのでしょう。
このことに気づいたのは、私自身にも、時間に追われながら死にもの狂いで勉強した時期があったからです。
まだ小さい子どもを抱えながら、MBA留学の勉強をしていたときと、実際に留学してからの約4年間です。
名門大学合格の決め手になったのは…
意外に思われるかもしれませんが、私のMBA留学は人生設計を考えたうえでの計画的なものではありませんでした。
夫にニューヨーク赴任の話が出て、ニューヨークで暮らすのなら大学院にでも行こうかな……と、最初はそれくらいの気持ちでした。
それからMBA合格を目指し、本格的な勉強を始めたのですが、それは大変なものでした。
最初はTOEFLもGMATも、思っていたより点数が出ず、あせりました。
それ以上に難物だったのがエッセイです。テーマがいくつか与えられ一題につきA4用紙3~5枚程度の英文を書くのですが、大学側に響く内容でなければ受からないため、英語でのライティング技術以上に、内容を考えるのが大変です。
勉強を始めた当時、息子は2歳。かわいい盛りで、もっと遊んであげたいと思いながらも、仕事と勉強をしなければなりませんでした。
夜は週2回予備校に通い、空き時間は都立図書館でひたすら勉強の日々。
週末も子どもと一緒にいたい気持ちをぐっと堪えて、夫に面倒を見てもらい、ひとりで勉強したりセミナーに通ったりしました。本当に辛かったのですが、そこまでやらなければ合格は難しかったのです。
そうして1年間勉強した結果、ある大学に合格できたのですが、入学するかどうかは大いに迷いました。
MBAを修了するには大変な努力が必要です。しかも私の場合、もう若くはなかったのでネームバリューのある大学でないと、MBAを取っても価値がないかもしれません。
悩んだ末に、もう1年勉強して再チャレンジすることにしました。
他の大学に合格できなかった原因は、エッセイだと直感しました。エッセイは本音を素直に書けばいいというものではなく、それを読んだ大学関係者に「この学生は卒業後、当大学のMBAコースにとってプラスとなる人材だ」と思わせなくてはなりません。
私が予備校の指導で作った「卒業後は英語学校を開きたい」という筋立てでは、大学関係者の気持ちを摑めなかったのだろうと思いました。そこで、もう一度自分で「合格するストーリー」を作り上げることにしたのです。
夫が金融関連の会社で仕事をしていることから、将来は夫とともに金融分野でのビジネスを始めるという「金融関係」のストーリーでエッセイを書いたところ、2年目にはイェール大学やデューク大学など、希望していた大学のMBAコースと、コロンビア大学の大学院(国際関係論)に合格することができたのです。
今、思い返してみても、あの2年間はあらゆる時間を利用して勉強していました。若くて独身だったら、あそこまで必死にはなれなかったかもしれません。
合格! ところがまさかの「大どんでん返し」!
ようやくMBA留学のめども立ったところで「大どんでん返し」が待っていました。
なんと夫のニューヨーク赴任の話がなくなってしまったのです!
もともと留学は夫について行き、家族で暮らすのが大前提でした。その大前提がなくなってしまったのです。
あっさり諦めるという選択もあったでしょう。しかし、これまで2年間の努力を考えると、あまりにもったいないと思いました。
一方で、MBAコースに進めば、授業料や生活費で2年間で約1200万円以上かかります。マンションの頭金にも匹敵するほど高額のお金をかける価値がはたしてあるのだろうか――激しい葛藤がありました。
友人たちの大多数は、「その年齢でMBAを取っても見返りはないからやめたほうがいい」という意見でした。
しかし、夫は、「株や債券、土地に投資するのと、自分自身に投資するのは同じことじゃないかな」と言ったのです。
投資にリスクはつきもの。商品によっては十分なリターンが得られないばかりか、ゼロになることだってあり得ます。
けれども留学を投資と考えるなら、経験するだけでも十分な価値があるのではないかというのです。
積極的ではないにしろ、夫は私のMBA留学を認めてくれたのでした。
はたして今の彼が同じ意見であるかは疑問ですが(!)、この言葉で私は決意を固めました。
あと一つの「パス」で即退学の危機!
決死の覚悟で向かったイェール大学のMBAコースでしたが、その勉強の過酷さは聞きしにまさるものでした。
授業で成績下位5~10%は「パス」という評価を受けます。もし受講科目のうち3科目で「パス」の評価を受けたら、その時点でクビ。追試や再試験はなく、即退学です。
私は1年目に2科目でパスを取ってしまいました。ひとつ目のパスは会計学でテストの英文を読み違えてしまったことによるもので、ふたつ目のパスは大学と労働組合の紛争に絡んだレポートで、労組側にインタビューしてしまったことが原因でした。
もうひとつ「パス」の評価を受けたら即退学だと思うと恐ろしく、必死でした。
月曜日から木曜日までは朝から午後3時まで授業に出て、以降は部屋に戻って課題をこなします。金曜日は授業がない代わりにひたすらレポートを書いたり、宿題をする日になっていました。
土・日曜日は主に「グループワーク」のレポートやプロジェクトの準備に充てていました。
アメリカ人学生など、就職活動を控えた人は、足手まといになりそうな外国人学生と組むのを敬遠するため、留学生はなかなかグループワークの仲間を見つけられません。
私は優しいアメリカ人や台湾人やメキシコ人のグループに入れてもらうことが多かったのですが、きちんと作業をこなさなくては次から仲間に入れてもらえなくなってしまいます。ですから土日も必死に準備をしました。
リスクをとって踏み出す勇気
死にもの狂いで勉強したおかげで、2年間で無事イェール大学を卒業することができました。
一人渡米しての留学生活は大変で、お金も時間もたくさん使いましたが、なんといっても辛かったのは子どもと別れて暮らさなければならなかったことでした。
息子も5歳になったばかりでいちばん母親を必要とする時期でしたし、夫も息子と離れて暮らさなければなりませんでした。みんなに辛い思いをさせました。
現在、私がやっていることはTOEICなどの英語を教えることで、MBAで習った専門的なスキルはまったく使っていません。「MBAまで取得して、金融の仕事をしていないのはもったいない」とよく言われます。
ただ、私が関わっているのはビジネス分野の英語で、これにはMBAで知ったアメリカのビジネスの知識が役立っています。会計、マーケティング、ビジネス戦略など当時学んだこともまた、独立して仕事をするうえでとても役に立っています。
MBA留学は非常に大きな賭けであったと今も思います。
ただ、キャリアアップを目指すなら、現状を変えたいと思うなら、どこかで“賭け”に出なくてはならない時が必ずあります。
何か特別なスキルや能力を持っていないと、飛び立ちたくてもなかなか踏み出せないものです。
私の教室の受講生だった女性は、ビジネスで成功したある方に、「人生で成功するには、運と、努力と、タイトロープを渡る勇気が必要だ」と言われたそうです。
私はこれに「勘」を加えたいと思います。
成功するには努力はもちろん、チャンスをもらえる運も必要、進むべき方向性を決める直感も、ここ一番でリスクを覚悟で賭けに出る勇気も必要です。
成功する保証はありません。失敗することもあるでしょう。
それでも、新しい可能性を摑むには踏み出さなければ何も始まらないのです。
新刊書籍『6万人のビジネスマンを教えてわかった 時間がない人ほど上達する英語勉強法』は、日々仕事に追われる中で、英語を身に付けなければならないビジネスパーソンのみなさんを応援したい、という気持ちを込めて書きました。
日本企業は生き残りを賭け世界に打って出なければならない状況です。
そのためには、まず「言葉の壁」を乗り越えなくてはなりません。
決してたやすい壁ではありません。でも、少し見方を変えてみてください。もし、今、あなたに英語力があればどうなるかを想像してみて欲しいのです。大変ではありますが、挑戦のしがいもあるのではないでしょうか。
覚悟を決めていったん賭けに出たら、死にもの狂いで努力して目標達成を目指す。その中で道は開けていくのだと、私は信じています。