クラファンは資金調達以外に「ファンの囲い込み」や「ブランド構築」のためにも利用できる
これら4作品の平均支援額は169万円、支援者数は115人と決して大きな数字いのが驚きでした。グラミー賞を受賞するような作品なので、支援者数は数千万円を超えるようなプロジェクトではないかと想像していたからです。そんな金額で果たしてアルバムの作成ができるのでしょうか。
私は著書やセミナーにおいては、「クラファンは資金調達のためだけに使うものではない」と力説しています。これまで数多くのクラファン成功者に取材をしてきましたが、資金調達のためにクラファンを利用している人は一人もいないのです。結果論として資金が集まるのが「クラウドファンディング」なのです。
では、資金調達以外にクラファンから得られるものは何でしょうか?実は「ファンの囲い込み」や「ブランド構築」ができるのです。音楽業界では、これらがとても大切になってきます。
今回ノミネートされた作品は、クラファンで「ファンの囲い込み」に成功した事例だと言えるでしょう。これらの作品は約2年前の2014年からクラファンプロジェクトをはじめ、上手にファンを囲い込んで、2016年に受賞をしています。まずはクラファンの「拡散性」を利用して、広く告知をして「認知」をはかり、「ファンを獲得」します。そして、ファンにとっては自分が支援した作品が成長し、グラミー賞を受賞していく道のりを見守るという、いわば「育ての親」のような新しい楽しみ方を経験できるのです。
では、日本でなぜメジャーアーティストはクラファンを利用しないのでしょう。日本の音楽業界を取材してみると、「大手メジャーレーベルに所属しているのだから、予算はあるはずなのに、なぜアーティス自身が資金集めをするような行為をしなくてはいけないんだ」という思いが強いようです。しかし米国においては、音楽業界だけではなく、例えば映画業界では、あのスパイク・リー監督も自身の映画作成の際にはクラファンを使うなど、クラファンを使うこと自体を時代にあったカッコいいブランド作りのために利用しています。
これらの流れに関して、キャンプファイヤー広報の矢崎海さんは次のように答えてくれました。「これからはアーティストが音源やグッズ、ライブチケットを売る以外に、「ファンとのコミュニケーション」を軸にした活動方法のひとつとして、クラウドファンディングを取り入れる動きが出てきます」。
このように、アーティストはクラファンを利用して作りたいものを作ることができ、そしてファンはより近いところでその活動を応援しながら、欲しいものを手に入れることができる。この仕組みこそがクラファン活用の真骨頂です。したがって、「メジャーアーティストだから、制作費があるからクラファンを利用する必要はない」と思っている人は、クラファンの本質をまだよく理解していないと言えるでしょう。クラファンを利用してファンとコミュニケーションを図ることによって、そこにストーリー性と、特別な信頼感、ブランドが生まれるのです。
音楽業界は、1990年代後半から始まるデータ音源の普及によるパッケージ販売の不振に加え、「AWA」や「Apple Music」を始めとするストリーミングサービスの登場も追い打ちをかけられています。アーティスト本人と、彼らを支えながら一緒に音楽を世に送り出し、利益を追求しながら新しい物を作っていく。以前は成り立っていたはずの、そのようなレーベルの形は非常に厳しいものになっています。その新しい形として、クラファンを利用してみてはどうでしょうか。もちろん制作費を集めることができ、そして多くのファンに応援してもらいながら、より良いものを届けるという意味では非常に優れた仕組みであると思います。
このような理解をえられない日本の音楽界はまだまだクラファン後進国です。日本の音楽業界は業績不振が続き、業界の構造の変革が必要な時期を迎えています。今後は、メジャーやインディー関係なく、アーティストが作り出すものとファンの求めるものを実現化するために、クラファンをより活用し、活路を見出していくタイミングが訪れているのではないでしょうか。今後日本で、音楽業界が積極的にクラファンを活用していくという動きを期待したいと思います。
グローバルラボ(Global Labo NY)代表。クラウドファンディング総合研究所所長。
1968年東京生まれ。高校卒業後、1988年に単身渡米。1995年に出版・広告業のITASHO AMERICAを設立。7つの会社を経営し、資金調達を成功させ米NASDAQへ上場を試みるが2001年同時多発テロの影響で倒産。多額の借金を背負った。
現在は、アメリカに進出する企業や起業家へ会社設立や資金調達などのコンサルティングを行っている。日米のクラウドファンディング事情に精通しているということで、特に最近はクラウドファンディングに関するコンサルティング依頼が急増している。
サウスカロライナ大学国際政治学部卒、中央大学ビジネススクール(MBA)修了、同大学院総合政策研究科博士後期課程。
著書は、「クラウドファンディングで夢をかなえる本」「日本人のためのクラウドファンディング入門」「結局、日本のアニメ・マンガは儲かっているのか?」「アニメ・グローバル競争戦略再考」等多数。
HP: www.cf-ri.com
Facebook:www.facebook.com/george.itagoshi