ところが、この素人が、小売業のプロたちにとって大きな脅威になっていく。それと同時に、情報革命の寵児として成り上がっていった。1997年には株式公開を果たし、インターネットビジネスの成功者の一人となる。1999年にはタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選出された。

 情報革命によって我々が拠って立つ前提条件が大きく変わるときには、むしろ常識に囚われない“素人”の方が強みを発揮する。玄人には業界の常識を疑うことができないが、素人はそうしたモノの見方から自由になれるからだ。「小売業には小売業の確立されたやり方がある。消費者を知っているのは我々だ。ウエブサイトに商品を並べたからといって売れるわけではない」というのが玄人のモノの見方だろう。これに対して、ベゾスは当時次のように世界を見ていた。

「世の中にはまだ発明されていないものがたくさんある。今後新しく起きることもたくさんある。インターネットがいかに大きな影響をもたらすか、まだ全然わかっておらず、だからすべては始まったばかりなのだ」

 この「まだ全然わかっていない」というモノの見方こそが、ベゾスに新しい書店のあり方を発見させたのだ。「常識」とは「普遍的な知識」「変わらないもの」のことを意味する。このため、常識に染まった玄人には、世の中の変化が見えなくなる。固定化されたモノの見方から外に出ることができなくなるのだ。ベゾスは素人であったがゆえに、業界の常識から自由になれたのである。

 自分の感覚にフィットした推奨機能、ワンクリックで買い物が終わる簡便さ、買った翌日、時にはその日のうちに本が配送されてくるスピード感、それを可能にしているフルフィルメントセンター、書店を持ち運べるキンドルなど、業界の常識を打ち破る革新的サービスを次々と打ち出すことができたのも、「すべては始まったばかりなのだ」というモノの見方が幸いしたといえよう。

業界関係者を敵に回しても
顧客の利益を優先する

 情報革命後の世界においては、こうしたユーザーの無意識の世界に訴え、驚きや快感をもたらす方法の発見こそが価値を生み出す。すでに公共財になってしまった「常識」が、新たな価値を生むことはないのだ。このため、ベゾスはグーグルの創業者と同じように徹底した秘密主義をとる。それが時として、社会から敵視される原因になっても、まったく怯むことはない。

 さて、業界の常識を疑うことは、多くの場合、業界関係者を敵に回すことを意味する。アマゾンもこれまで、バーンズ&ノーブルなどの大手書店チェーンや大手出版社、トイザらスなど書籍以外の大手小売企業など、並み居る業界の強者と激しくぶつかってきた。しかし、アマゾンのような素人の方が、玄人に勝ってしまうことがある。それはなぜだろうか。

 業界の常識の中には、多かれ少なかれ欺瞞が隠されている。顧客の利益ではなく、自分たちの既得権を守ろうとする欺瞞だ。ここでもうひとつエクササイズをしてもらおう。

【エクササイズ2】
Q:あなたがよく知っている業界の常識をいくつか思い浮かべてみてください。その中に、顧客の利益よりも、事業者の利益の方を優先する欺瞞が隠されていないか考えてみましょう。