日本でいちばんお金を持っているのは、働き盛りの世代ではない。総務省の調査によれば、資産のピークは70代にある。若い頃は必死に稼ぎ、貯め、我慢する。そして、使える体力も好奇心も薄れた頃に、ようやくお金が残る。それは「堅実な人生設計」なのか、それとも「静かな取りこぼし」なのか。『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』は、この当たり前を鋭く問い直す。(執筆:坂本実紀、企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

40歳未満の平均貯蓄は867万――日本で一番“金持ち”なのは何歳かPhoto: Adobe Stock

もっとも裕福なのは定年後の世代

坂本実紀(さかもと・みき)
WEB&ブックライター
高知県出身の3児の母。出版社勤務を経てフリーライターへ転身し、現在は新潟市を拠点に地域情報メディアのライティングやブックライティングに携わる。恋愛コラムニストとしても活動し、これまでに受けた恋愛相談は1万人を超える。

何をしても、お金がかかる。しかも、以前の倍近く。実際、我が家の家計は今年、烈火のごとく100万円の赤字となっている。

だからこそ、どうしても気になってしまうのが貯蓄額。仕方ないとはいえ、数字が減っていくと焦りが生まれる。

ふと調べてみると、総務省の令和6年の調査によれば、「二人以上の世帯」における40歳未満の平均貯蓄額は867万円だった。さらに平均負債額(住宅ローンなど)は1765万円となっている。40歳未満は、平均で見ると、貯蓄よりも負債のほうが大きい世代だった。もちろん、我が家でも住宅ローンが家計に重くのしかかっている。

40歳未満の平均貯蓄は867万――日本で一番“金持ち”なのは何歳か出典:総務省統計局「家計調査(貯蓄・負債編)2024年(令和6年)

一方で目についたのは、70歳以上の世帯の貯蓄額だ。平均貯蓄は2441万円、平均負債は56万円。不動産を持っている人の資産額はもっとあるのだろう。

富裕層が平均値を釣り上げているので鵜呑みにはできないが、老後2000万円問題を考えるとすばらしい数値ではないか。反面、じゃあ、それで明日死んでしまったとしたら、後悔しないのかなとも思ってしまう。

死ぬ直前が一番お金持ちになってしまう理由

日本人はなぜ、70代で一番お金持ちになってしまうのだろう。そんなことを思いながら『DIE WITH ZERO』を読んでいると、思い当たる箇所があった。

父はドイツからの移民の息子として、大恐慌時代に育った。それもあってか、どれだけ貯金があっても「まだ足りないのではないか」という不安を抱き続けていた。たとえば、将来、多額の医療費が必要になるかもしれないと恐れていた。
――『DIE WITH ZERO』より

お金は、使うと便利だが、あるだけでお守りになる。お金があることで「なにか」あった時の恐怖が軽くなると感じる人も多いはずだ。

つまり、死が近づくにつれ、強力なお守りを持っていることで、精神の安定が保たれる。実際に、医療費は保険でまかなえても、介護が必要になり、施設に入ることも考えていかなければならない。平均寿命の長い日本は、死ぬまでも長すぎる。その長い旅路を歩くための保険として、現金を握りしめているのではないか。

お金の価値を最大化できるのは26~35歳

一方で本書には、次のような一文もある。

お金の価値を最大化できるのは「26~35歳」

それ以降は、年齢と共にお金の価値が減っていく、と。お金をたくさん貯めている高齢者の中には、このお金の価値を最大化できる時代を「稼ぐ」「貯める」ために使った人は多いはずだ。

そのいろいろなものを諦めて貯めたお金で「今の安心」があるのも事実だろう。一方で、体力もあり、お金の価値を最大化できる時期にお金を使わなかった損失も大きいのかもしれない。

私は35歳を過ぎたが、まだまだお金で買いたいものも思い出も多い。もちろん、老後のための適度な貯蓄も意識していきたいが、そればかりに目を向けて「今しか得られない思い出」を失うようなこともしたくない。ようは、バランスの問題なのだと思う。

お金が貯まらない今だからこそ、何にお金を使うべきかを考えながら、今と未来を最適化していきたい。最高の人生を、0円であがるためにも。

(本原稿は、『DIE WITH ZERO』(ビル・パーキンス著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)