ニューヨークのアーティストであるアレックス・スメツキー氏がMEISEI HUBの壁に描いた縦3.8m、横13mの大壁画「EAT LIFE!」(自分の力を使い尽くせ!)
年内入試による入学生が過半となり、一般選抜が減少している。偏差値が次第に無力化に向かう少子化時代に選ばれる大学の条件とは何か。戦後生まれの中堅大学が生き残りを懸けた取り組みを見ていこう。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)
落合一泰(おちあい・かずやす)
学校法人明星学苑理事長

1951年東京生まれ。東京教育大学附属駒場中学校・高等学校、東京大学農学部卒業。同大学院社会学研究科文化人類学専修課程修士課程修了。ニューヨーク州立大学オールバニ校大学院博士課程修了(人類学博士)。メキシコ国立人類学歴史学研究所、ハーバード大学、マニラ・デラサール大学、ボローニャ大学、マドリード・コンプルテンセ大学などで客員教授・客員研究員を歴任。1997年一橋大学教授。2010年一橋大学理事・副学長。15年明星大学明星教育センター常勤教授。同大学副学長、学長・明星学苑理事、副理事長を経て25年より現職。著書に『マヤ 古代から現代へ』(岩波書店)、『トランスアトランティック物語 旅するアステカ工芸品』(山川出版社)など。
「偏差値なき時代」に選ばれる大学とは
――前回は明星学苑の中高が、なぜ東京・多摩で最強の大学進学を目指す「明星Institution中等教育部(MI)」をつくろうとしているのか。文理横断や多文化共生が象徴する“越境の時代”を豊かに生きる生徒・学生を育成することが、学苑全体のロングレンジでの目標であるというお話でした。
落合 多摩に生まれ育った私立総合大学として、明星大学は60年を超える歴史を刻んできました。このことは、本学が多摩に貢献し、育てられ、地域の信頼を勝ち得てきたあかしです。しかし、令和に生まれた日本全体の子どもの数は団塊の世代の4分の1にまで減っており、多摩でも2022年から27年までの間に18歳人口が約17%減少すると予想されています。この少子化の流れの中で、次の時代を担う若者をどのように育んでいくか。ここに教育機関としての役割と経営課題があります。
――特に中堅の私立大学にとっては厳しい時代です。大学も生き残りを懸けて年内入試で学生を確保するようになり、年明けの一般選抜に臨む受験生が年々減っています。
落合 長い目で見ますと、一般選抜の受験生が減り、大学入試で偏差値が機能しなくなっていく。これは本学にとりチャンスだと私は捉えています。既存の大学ブランド・ランキングは残るかもしれませんが、偏差値を追いかけるより教育の中身で本当の競争ができるようになるからです。
――明星学苑の創立者である児玉九十先生が丘陵を切り開き、初代学長として1964年にまず理工学部、翌年に人文学部を設けました。「和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する」を建学の精神として掲げ、1923(大正12)年以来、中堅の職業人を養成する教育機関を目指していました。
落合 この建学の精神を現代に活かそうと、明星大学は23年の学苑創立百周年にあたり、「新たな時代を世界の人々と共創する」「多摩に根差し、地域に貢献する大学」という大学の2つのビジョンを公表しました。教育目標としては、「生涯にわたり自律的に学び続け、みなと協働して幸福を生み出していく人の育成」を新たに掲げました。
――世界と多摩、グローバルとローカルを併置していますね。
落合 両者を混ぜた「グローカル」という言葉もありますよね。でも、私の世界各地での経験では、両者はなかなか混ざらず、人々はローカルとグローバルを並置させながら生きていることが多い。人間にはそうした能力があるんですね。そこで、大学ビジョンをふたつの部分で構成することにしました。
明星大学の入学生の6割近くが、多摩を中心に埼玉県南部や相模原など神奈川県東部も含む“グレーター多摩”とでも呼ぶべきエリアの高校出身者です。人口約425万の多摩は、都道府県人口ランキングで10位静岡県と9位福岡県の間に位置するほど大きな人口規模を持っています。大学も多く、産学連携の可能性の高い地域なんです。
――キャンパス内で一番高い場所である27号棟の18階からおおむね見渡せる範囲ですね。
落合 帝国データバンクの24年の調べによると、多摩地域企業の卒業大学別社長数ランキングで、明星大学は日本大学、中央大学に次ぎ第3位です。早稲田大学や明治大学より卒業生社長が多い。いま名前を挙げた大学はいずれも大規模大学ですから、社長数を在校生数で割った社長輩出率で比較しますと、本学が圧倒的に高い。それだけ地域に密着し、地域に貢献してきた大学だということですね。
先日、明星大学の教育成果を描いた『明星大学生はうまくいく』(西山昭彦著、PHP研究所)という本が出版されました。人気上場企業に就職を決めた明星大生たちや本学出身の社長などへのインタビューがたくさん載っています。ぜひ手に取って明星大学の教育の力を知ってください。
――最近は学校の先生になる卒業生が多いようですが。
落合 24年度の教員採用1次試験合格者数は、小学校を中心に過去最高の273人でした。教育学部以外から中高の教員になる学生の合格率も大幅に増加しているんです。学校はブラックな職場だと言われていることを承知のうえで、生徒と接していきたい、一緒に成長したいという志を持って教職を目指す学生が明星大学には大勢います。本当にうれしいことであり、頭が下がります。
――理工学部への進学者は大学間で奪い合いだと聞きます。
落合 伝統的な理系学部への志願者は全国的に減少傾向です。そこで本学は、23年に応用的な新しい理系のデータサイエンス(以下DS)学環を新設しました。入学定員30人と小規模で、教員が手塩にかけてスペシャリストを養成しています。DS学環は、その一方で、9つある学部を活気づけていく役割も担っています。「DS学科」と名付けても良かったのですが、DSを大学全体を結び付ける輪にしようということで、DS学環という名前にしました。
例えば、人文学部日本文化学科の伝統芸能の授業では、これまでは能役者の動きをビデオに撮って足の動きなどを分析していました。これからは、能役者の体のあちこちにセンサを付けて演じてもらい、舞い方をモーションキャプチャー技術でデータ化して解析することもできるようになる。能役者の体の運び方のデータ分析という、これまでとは手法の異なる論文が出てくるのではないかと期待しているところです。
加えて、全学生必修の「DSリテラシー」の授業も設けました。学生全員がDSの基本的な知識や経験を身に付けて社会に出るようにする。それが現代社会の求める大学教育の役割のひとつだからです。独自の教科書まで作ったんですよ。数学が得意である必要はありません。応用面を知り興味を持った経験が、社会に出てから生きると思っています。
東京学芸大学と並ぶ大学では都内最大級の天体望遠鏡(理工学部総合理工学科物理学コース)。明星大学は1964年開設の理工学部から始まった







