打開策は体験の外から学べ!

 多くの戦史で特筆すべき戦果を挙げた戦略家、大逆転を成し遂げた軍師が教えてくれるのは、効果的に常識や慣習の境界線を超える方法です。

 人間は誰しも、今までの方法、過去の成功体験に囚われます。それが通用した時間が長いほど、私たちを依存的にするからです。ところがある日を境にそれが通用しなくなると、誰にも混乱が訪れます。パニックに陥るのです。自らの体験から探しても、打開策が見つからないからです。

 体験から私たちが学ぶことは数多くあります。しかし、体験からだけでは学べないこともまた多いのです。最も危険なのは、体験の枠組みの外から問題解決法を学ぶべきときに、あくまで自己の体験にこだわってしまう場合です。

 このような道を選ぶと、たいていの場合、自己の人生が終わるまで問題の突破口を見つけられず、戦史で言えば「敗者」のままで一生を終えることになります。なぜなら、打開策は自己の体験の中には存在しなかったからです。

 だからこそ、3000年の英知である戦争戦略、戦史の戦略に触れる価値があるのです。時代の転換期には、新たな巨大帝国が勃興することがよくあります。古代ローマから中国の秦、チンギス・ハンのモンゴル帝国や欧州を席巻した皇帝ナポレオンのフランスなど。

 彼らが膨張を続けることができたのは、周辺諸国の古い戦略を圧倒する新たな戦略を創案することができたからです。逆にいえば、新たに生まれた巨大帝国が襲ってきた場合、周辺諸国はその変化に応じた新しい対抗策を生み出せなければ、流れにのみ込まれてしまいます。

 生き延びることができるか、時代の変化で滅ぶ側に回るのか。運命が分かれるのは、まさにこのようなときです。運命の分岐点に立ったとき、流れにのみ込まれて敗者になるか、新たな英知を生み出して果敢に行動して勝者となるか。戦略を歴史から学ぶことは、まさに今そのような場所に立っている個人や組織に、多くの恩恵を与えてくれるのです。

3000年を一気に読むことで、
真に有効な戦略が浮かび上がる

 なお、この連載ではわかりづらいかもしれませんが、『戦略は歴史から学べ』では、語り方に少し工夫を施しています。冒頭から読み進むと少しずつ歴史がつながり、ざっくりと3000年の世界史の流れがわかるようになっています。

 戦いの勝者は、次に登場する覇者にどのように敗れ去ったのか。隆盛を誇った巨大帝国はなぜ滅びることになったのか。戦いの歴史を入り口にして、世界史の流れがざっくりとわかるような構成にしています。なぜなら、世界史の流れを連鎖として読み解くことで、真に有効な戦略が浮かび上がってくるからです。

 私たちの過去、現在の成功も永遠ではなく、やがて劣化するときが必ずきます。そのときには、もがきながら古い殻を破り、新たな強さを身に付けなければなりません。これらの条件をどう乗り超えるか。3000年が教える勝者の絶対ルールとは、人間が運命を乗り超えるための最強の武器でもあるのです。

 それでは次回から、具体的に戦略を取り上げてご紹介していきましょう。第2回は、「戦略の父」と言われるカルタゴのハンニバルです。10倍の規模のローマ軍を相手に、圧倒的に不利な状況下でハンニバルはどう戦ったのでしょうか。その戦略思考は、ウォルマートの戦略とも共通する部分があったのです。

(第2回は3/25公開予定です)